カテゴリ: 大人の嗜みガイド

SFっておもしろい!

これまではややこしい科学技術、物理の概念がでてくるイメージが先行して敬遠されがちだったSF。事実90年代頃は人気に陰りが見えていたようだ。
ところが最近、インターステラーの大ヒットや、伊藤計劃の流行、ハヤカワSFコンテストの復活など、SF全体に追い風が吹いている。

インターステラーを見ても分かるように、SFはけっして小難しいものではない。ややこしい物理の概念なんて一切でてこないというものもおおい。難解ではないのだけど、深く考えさせる、そんな魅力的なSFが山ほどある。
今回はインターステラーや伊藤計劃からSFに興味をもった人向けに、あまり有名過ぎない、けれども歴史に残る名作と呼びうるSF小説を三本紹介させていただきたい。

通勤電車の中で文庫本をひらいて非日常の世界を旅する。そんなすばらしい体験をあなたにもしてほしい。

スローターハウス5

出典: sort.blog32.fc2.com

ヴォネガットという小説家がいる。日本では意外と知られていない作家だが、村上春樹におおきな影響をあたえるなど、SFの垣根をこえて支持されている作家だ。

スローターハウス5はヴォネガットの第二次世界大戦における体験を書いた半自伝的なSF小説である。ウィットに富んでいて読みやすく、それでいて深みのある名言のちりばめられている素晴らしい作品だ。
ヴォネガットは第二次大戦に従軍し、ドイツで捕虜になって捕虜としてドレスデン爆撃(ドイツの都市ドレスデンに対して連合軍が行った爆撃。広島長崎にならぶ大戦の悲劇)を体験した。
ここには超ひも理論も宇宙船も星間航行もでてこない。
ここにあるのは戦争というとてつもない惨禍を、感性を破壊するような体験を、普通の小説ではない“SF”という形で書くことしかできなかった一人の男のうめきごえだ。
そんな激烈な体験をしながらも、絶望の淵に沈みながらも、なお彼は生を引き受けて歩き続けようとする。

“神よ、願わくば私に、変えることのできない物事を受け入れる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とを授けたまえ。”

仕事で失敗したとき、あるいは恋人に手ひどく振られたとき、自分の信じていたものが、自分自身の価値が、すべて喪われてしまったと感じるとき、あなたはこの本を手に取るべきだ。あなたはこの小説に「生きる」ということの極点を見るだろう。

ついでにいっておくと、インターステラーの最後の五次元世界の描写がうまくつかめなかった人は、この本にでてくる時間概念が、その理解を助けてくれるだろう。

最後の戦い

インターステラーではウラシマ効果が非常に効果的に使われていた。ウラシマ効果が感動をもたらすシーンは映画内で屈指の名シーンと呼んでいいだろう。
ウラシマ効果、時間が我々をおいてきぼりにしてしまうというのはうまく使えば非常につよいメッセージを作品に与えられる。
その一例がこの「終わりなき戦い」だ。

これもまた作者が戦争経験者(ベトナム戦争)で、その経験をSFの形を借りて寓話的に表現せざるをえなかった一人である。

主人公の生きる時代、人類はトーランという異星人と泥沼の戦争を繰り広げている。主人公は新兵として、地球からはるか離れた宇宙の果てでその戦争に従事することになる。えんえんと続く目的の見えない戦争。ウラシマ効果のせいで、地球の時間は主人公を置いてきぼりにどんどんと進んでいく。様変わりする故郷。戦争がようやく終わったとき、主人公は・・・

インターステラーでは主人公は人類のために危険に身を投じ、そして人類は救われた。
終わりなき戦いでは違う。
主人公は人類のために、と言われて危険に身をとうじたが、主人公は自身と地球との距離のおおきさ、乖離に苦しむことになる。そして戦争というのはおうおうにしてそういうものなのだ。

出典: nothinner.blog.fc2.com

すばらしい新世界

出典: www.kobunsha.com

ディストピアというSFのジャンルがある。だせばかならず大ヒット、で知られる村上春樹の近年の長編小説「1Q84」の元ネタになったことで一躍知られるようになったジョージオーウェルの名作「1984」などが代表的なものだ。
ディストピアとはユートピアの対義語で、多くの場合その世界は自由のない全体主義的なものとして描かれている。
今回紹介する「すばらしい新世界」は、そのディストピアSFの頂点ともいうべき作品だ。

舞台は今から500年もあと、西暦2540年の地球。そこでは人間は培養ビンの中で製造、選択され、完璧な教育を受けて出てくる。人々はカースト的に分類され、底辺カーストは奴隷のような職業に従事するが、厳しい条件付けのため、それに不満を持ちことは決してない。人々は嫌なことがあると「ソーマ」と呼ばれる麻薬を摂取して幸せな気分になる。芸術、文学は心を乱すものとして否定され、人々の楽しみはソーマをキメながらフリーセックスに興じることだけ。
そんな社会に、数少ない現存する未開社会から一人の青年がつれてこられる。彼はあまりにも自分の知る世界とかけ離れた世界に疑問をおぼえるが・・・

これを読み終えた後、素直にこれをディストピアとして感じることのできる素直な人間は幸いである。
しかし、多くの人間は「これは果たしてディストピアだろうか?たしかに一読した限りではそのように思えるけれども、すべてがあらかじめ決められて、不快なことは何もないような世界は、そこに住む人間にとってはユートピアなのではないだろうか?」と思うに違いない。
もしそうおもったなら、この本はあなたが「幸せとは何か、幸せな社会とは何か」ということを考えるきっかけになるはずだ。

最後に

ここまでの記事を読んで、意外とSFって深いのだな、と思っていただければこれほどうれしいことはない。SFといってもその幅は広い。もっと哲学的で抽象的なものもあるし、逆に軽くて冒険活劇的なものも多くある。今回紹介した三作品をきっかけにSF小説に興味を持っていただけたら、と願いながら本記事を締めくくらせていただく。

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編集部 三宅隆平

脳髄を置いてきぼりにして走る

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