カテゴリ: 大人の嗜みガイド

あなたはクラシックを聴くべきだ、なぜなら……

あなたはクラシックをきくべきだ、なぜならそれはとても素敵なものだから。ロックやポップスやジャズと同じように、魅力にあふれていて、実はそんなに偉そうなものではないのだから。
今回アクセトリー編集部は、これまでクラシックを聴いたことがないという人に、ちょっと視点を変えた聴き方やおすすめの曲を指南したいと思う。

寝転がって聴こう

クラシックだからといってかしこまらないでいいのだ。
そもそもクラシックという名前が悪いとすら思う。古くて権威主義的なところが強くあるし、間口が広いようにはとてもじゃないけど感じられない。衒学的でナルシストっぽい印象すら受ける。のだめカンタービレのような漫画を読んだ後ですらそう感じてしまう人がいるという事実が、この問題の根深さを物語っている。

だからこそアクセトリー編集部は提案したい。寝転んでリラックスして聴くべきだ、と。
照明をおとし、ベッドにあおむけに寝転んでクラシックのCDをステレオにセットする。スイッチを押したら音楽が流れてくるだろう。だが全力を注いで聴くことはない。とりとめもない思索の戯れに心を預けて、音楽が耳に入ってくるのに任せればいい。もちろん途中で寝てしまったってかまいやしない。酒を飲んでいたっておつまみを食べていたっていい(ただしあんまり絶え間なく食べていると咀嚼音で音楽が聴こえなくなる)
もちろんリラックスできる体勢であればなんでもいいのだから、ソファにふんぞりかえってもいいし、ロックを聴くときのように体をゆすりながら聞いてもいいのだ。指揮者の真似をして、拍子に合わせて腕を振ってみるのも楽しい聴き方だ。

酒を飲んで聴こう

酒を飲んでクラシックを聴くなんて!!
そう思われる方もいるだろうか。だがアクセトリー編集部はあえて提案したい。酒を飲んで聴きこう、と。
そもそもクラシックを素面で聴かなければならないという道理はないのだ。ある程度酔った状態でクラシックを聴くと、その音の波に揺蕩い、それがつむぐ物語の中に分け入っていくような、神秘的な体験を得ることができる。
コンサートでも同様だ。丁度ライブハウスでワンドリンクを片手に音楽に合わせて体を揺するように、コンサートでも、開演前や休憩時間中にワインを一杯傾けてから、というのは珍しくない。ある程度大きなコンサートホールであればホワイエ(コンサートホールや劇場などのラウンジ、休憩所のこと)でワインが飲めるようになっている。もちろん飲みすぎには注意されたい。

コンサートホールで聴こう

自分の部屋でリラックスして聴くのも悪くないが、音楽というものが多くの場合そうであるように、クラシックもライブで、つまりコンサートで聴くのがいちばんよい。
まず熱量と迫力が段違いだし、最高の音で聴けるように設計されたコンサートホールで聴く音楽は低音から高音まであますところなく味わえる。クラシック、特にオペラや交響曲はほかのロックやポップスに比べて格段に音の情報量が多いため、CDでは拾いきれない部分があるのだ。
またロック等のライブに対してのアドバンテージは、なんといっても座れるという点。立ちっぱなしのライブに比べて圧倒的に楽に音楽に浸れる。

おすすめのクラシックークラシック別視点ー

おすすめ、といってもここでベートーベンやバッハのような有名どころをチョイスすることはしない。というのもそうしたよく知られた作曲家の曲は多くの場合「どこか耳に覚えがある」ものになってしまうので、ここであえて紙幅を割く必要はないと思えるからである。

明るくて楽しい気分になれる一曲 -屋根の上の牛 ミヨー作曲ー

ダリウス・ミヨーというフランスの20世紀の作曲家のバレエ音楽である「屋根の上の牛」はとにかく明るくて軽快。堅苦しい、難解といったようなクラシックのイメージを根底から覆してくれる一曲だ。ノリノリの金管がラテンなメロディを奏で始めれば、もうその世界に魅了されているに違いない。ちなみに当のバレエのあらすじはぐちゃぐちゃで、曲と相反して前衛的なものになっている。
フランスの作曲家というと日本での知名度は決して高いとは言えないが、だからこそか、逆に偉そうなところのないとっつきやすい曲が多くなっている。

十五本のトランペットとオルガンに圧倒されるー交響曲第三番 ハチャトリアンー

圧倒的で激しい音の奔流に流されてしまうことを望むなら、こちらの一曲をおすすめする。冒頭で鳴り響く十五本ものトランペットの不穏さに満ちたファンファーレに戦慄することだろう。一分半ほどのところで小太鼓の機関銃のようなロールが空間を切り裂き、そして二分すぎくらい、ファンファーレが頂点に達したところでオルガンがなだれ込んできた瞬間、すさまじいカタルシスがあなたの全身を貫くはずだ。自宅でヘッドフォンをかぶって爆音で聴いてほしい一曲。悲しいことにそのすさまじい難易度もあってか日本で演奏されることがあまりにも少ないためコンサートホールで聴くことがなかなかできない。一生に一回でいいので生で聴いてみたい、というのが私の隠れざる願いだ。

こちらの曲を描いたハチャトリアンは日本でも広く知られる「剣の舞」の作曲者でもある。剣の舞においてもそうであるような、どこかペルシャ的な旋律は、日頃ロックやポップスになれた我々の耳に新鮮に聞こえるはずだ。
ちなみにこの曲の背景を説明しておこう。ハチャトリアンという作曲家は20世紀のロシア、すなわち共産党下において芸術に大きな制限が掛けられていたことで知られるソ連の作曲家である。この曲はロシア革命30周年記念の祝典のために書かれた曲で、なるほどド派手なファンファーレで始まっているが、聴けば分かる通りそのファンファーレも華々しい祝典というよりは、荒れ狂う暴風雨や、戦場で鳴り響く大砲の轟雷を思わせる、極めて反戦的、反体制的な曲である。当然作品を依頼した当局もそれがわからぬほどの間抜けではなかったため、祝典に使われることなくお蔵入りとなり、スターリンの死後ようやく演奏されたという。

演奏はコンドラシンの指揮によるモスクワフィル。ちなみにコンドラシンはソ連の指揮者。熱のこもりようが尋常ではない。

こんなのもあり?? ラの音だけで作られたピアノ曲ームジカ・リチェルカータ リゲティ -

こんなのありなのか?? そんな遊び心に満ちた曲がこれだ。この曲はリゲティという現代音楽家の作曲したムジカ・リチェルカータという曲。十一曲からなる組曲で、今回紹介する一曲目は何とラの音だけで作曲されている。(最後の一音だけはレの音)聴いてみたあなたはこう思うはずだ。「え!? ラの音だけでこんなにかっこいい、多彩な表情をもった曲が作れるの?」と。
第一曲はラとレの二音のみを使って描かれているが、第二曲では三音、第三曲では四音、最後の十一曲目では十二音すべてを使って書かれており、一つづつ使われる音の数が増えていくようになっている。遊び心に満ちた親しみやすい曲なので、ぜひほかの曲も聴いてほしい。

このリゲティという人は、他にも面白い試みを残した人である。ついでなので「百台のメトロノームのための交響詩」という作品も紹介しておきたい。この曲は百台のメトロノーム「だけ」でできた曲で、もちろんメロディは存在せず、ただただ百台のメトロノームがカタコト鳴りまくってるという謎の曲である。一応トーンクラスターという音楽理論の実践ということになっているが、聴いている分には夕立がトタン屋根を叩いているようにしか聴こえない。

戦争の悲しみ -フルートソナタ プロコフィエフー

ここらでしっとりした曲を一曲。
プロコフィエフのフルートソナタは、数あるフルートソナタの中でも人気が高いもので、フルートの特性を生かした透明感のあるメロディが素晴らしい。吹奏楽ではピロピロ高音で踊っているだけのフルートだが、こんなに多彩な音色を持っているのだぞ、と主張したい。
この曲が書かれたのは1943年のソ連、すなわち第二次大戦の真っただ中だった時期だ。当時ソ連はナチスドイツに押しに押されまくっており、ソ連の国土も戦車や軍靴の踏みしだくところとなっていた。冒頭の切ない、それでいてどこか明るいメロディが涙をさそう。

鎮魂歌らしい鎮魂歌ーレクイエム フォーレー

レクイエム、というのは死者のための曲。日本では鎮魂歌というすばらしい訳語があてられている。上の動画はそんなレクイエムの中でもとくに有名な「三大レクイエム」の一角、フォーレのレクイエムである。
この三大レクイエムのなかで唯一静謐な雰囲気を保っているのがこの曲だ。のこりの二大レクイエムである、モーツァルトとヴェルディのレクイエムは全然鎮魂という感じではないどころか、ヴェルディのド派手なレクイエムに至っては死者を蘇らせんとしてるのではないかと錯覚してしまうほど。
一杯のワインなりウィスキーなりを飲んでこれをかけながら寝るととてもよく寝られる。そのまま永眠してしまえるくらい穏やかで癒される一曲だ。

酒をのみながら聴きたいーダンス フィリップグラスー

ミニマルミュージックという音楽のジャンルがある。音の動きを最小限にし(ミニマルにし)反復するもので、その第一人者がフィリップグラス。同じメロディを反復、なんていうと「物凄い退屈なんじゃないか」と思われる向きもあろう。
たしかにまともに聴くと物凄く退屈で「早く終わってくれ…」となりがちだが、酒を飲んで聞くと曲は一変、呪術的、麻薬的な色彩をたたえる。それもそのはず、このミニマルミュージックはそのルーツにイスラムやインドの神秘主義宗教音楽をもつのだ。彼らがいわば「悟り」を得るために麻薬をキメ、旋回舞踏しながら聴いていたのがこういう曲だったのである。

グラスのこの曲は荘厳なオルガンも相まって、なおのこと神々しい一曲となっている。何杯かお酒を飲んでベッドに仰向けになり、そしてこの曲を聴く。だんだんと天井が回転し始めるだろう。やがて天井の回転は速度を速め、周囲の壁やステレオ、机が溶け落ちるようにその回転の中に組み込まれていくのを感じるだろう。

ちなみにグラスは映画音楽などもおおく手掛けている。近年の作品でいえば「イノセントガーデン」のために書き下ろされたこの曲も、とても聴きやすくおすすめだ。

最後に

今回はモーツァルトやショパンほどの知名度がない、それがゆえに権威として定着していない、クラシックらしくないクラシックを紹介させていただいた。
意外と遊び心のあるものがあったり、酒を飲みながら聴くと解脱できそうな曲があったり、踊りたくなるような曲があったり「クラシックってこんな曲もあるんだ!」と驚いてもらえそうな曲を選択してある。

ついでにいうと、これらの曲の多くはクラシック好きの人たちの間でも(非常に残念ながら)知られていない曲ばかりである。従って、もし万が一「僕クラシックすきなんだよねえ、ショパンとかブラームスとか。(どうせお前らポップしかきかないんだろ?)」みたいな感じで偉そうにしている輩に絡まれた場合、今回紹介した作曲家、とくにリゲティやグラスあたりの現代作曲家の名前を出せばほぼ確実に撃退できる。

今後もクラシックの曲やコンサートを、すこし変わった視点から紹介していきたいと思っているので期待されたい。

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編集部 三宅隆平

脳髄を置いてきぼりにして走る

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