雨、涙、映画。 -梅雨に観たい映画ー

雨はどこか涙に似ている。笑い涙だろうか、悲し涙だろうか。なんであれそれは、感情の横溢だ。梅雨は空と一緒に涙を流してみよう。 今回は私が以前観て気に入った、雨にまつわる映画を紹介する。

ショーシャンクの空に

言わずと知れた超名作映画「ショーシャンクの空」。雨のシーンが極めて印象的な一本。きっとこの記事を読んでいる方の中にも観たことのある人は多いに違いない。

あらすじをすごく簡単に説明すると「冤罪で投獄された主人公ががんばって脱獄する」というそれだけのもの。
だけど、人生について知るべきことは全て「ショーシャンクの空に」の中にある、と私は思う。善も悪も、怒りも悲しみも喜びも愛も、たった二時間の中に詰まっているのだ。

そして主人公が脱獄に成功した後、その全身に浴びる雨はなんであるか。それは喜びである。悲しみである。憎悪であり、空虚であり、そうした全てを洗い流す浄化の雨である。
まだ観ていない人がいたら今すぐツタヤに走るべきだ。観た人も、この梅雨にもう一回みてほしい。

ちなみに監督のフランクダラボンは、佳作ではあるけれども「グリーンマイル」や「ミスト」といった素晴らしい作品を撮っている。この映画を観て心を揺さぶられた人はぜひほかの映画も見てほしい。

ハイフィデリティ

ショーシャンクが重厚なヒューマンドラマ(決して観疲れするというわけではない)だとするなら、こちらは少しお馬鹿で笑えてほっこりできる映画。
中古レコードショップを経営しているロックおたくの主人公が「最悪の振られ方BEST5」を語り、元カノのもとに振られた理由を聴きに行くというコメディである。

クソみたいな主人公に、最低五人も元カノがいるのが腹立たしくなるのはさておき、この映画の雨ポイントは、主人公が泣くシーンが必ず土砂降りであるというところ。あまりにも露骨なので笑ってしまう。

もちろんそれだけではない。この映画はある種のオタク賛歌である。主人公のような音楽オタクだけではなく、車オタクや野球オタク、アイドルオタク、何であれ強い情熱を趣味に注いでいる人にあまねくお勧めしたい。

一般的にみて、女性よりも男性のほうが強くオタク気質を備えているものだ。アクセトリーの読者の中にも心当たりのある人は多いに違いない。もし彼女や家族に「なんでそんなものに大金と時間を費やすの?? バッカみたい」なんて言われても「いや、これはね、こうこうでこうなんだよ」なんて語ってはいけない。ますますオタクっぽく見られて好感度は右肩下がり間違いなしだから。そんなときはこの映画を一緒に観るといいだろう。もしかしたら趣味を理解してもらえるかもしれない。

脇役のジャックブラックの演技と、土砂降り、そしてなにより音楽が素晴らしい映画だ。笑って泣いて、オタクであることの喜びを味わえるおすすめ作品。

ブレードランナー

映画史に大きな影響を与えたSF映画を三つ、と私が言われたら「2001年宇宙の旅」「スターウォーズ」、そしてこの「ブレードランナー」を挙げる。もちろん素晴らしいSF映画がごまんとあるのは承知だし、私自身SFが好きなので観る機会がおおいが、それでも影響度を考えればこの三つで決まりだと思っている。

このブレードランナーが革命的だったのは、それまで無菌室のような未来像が普通だった中でごみごみじめじめ雑然とした世界観を提示したところだろう。従来の宇宙空間や他の星を舞台にしたSFと異なり、この地球をペシミスティック、ディストピア的に描いたこの作品は、すぐれた映像美も手伝って、後のSF全般に大きな影響を与えることになった。

作品内で始終降り続く雨(酸性雨らしい)は陰鬱な雰囲気を作品にもたらしている。「ショーシャンクの空に」や「ハイフィデリティ」の雨とは全然違う、日本の梅雨っぽい、じめじめしたいやらしい雨だ。

ブラックレイン

ブレードランナーに続いてリドリースコット監督の「ブラックレイン」。どうもリドリースコットはじめじめとした雨を作品の小道具として取り入れるのが好きなようだ。

この映画は日本が世界に誇れる名優「松田優作」の遺作となったこの作品は、ヤクザが出てくる映画としては最高の一本。松田優作だけではなく高倉健や内田裕也など、なじみのある日本人俳優が出てくるのもよい。

ヤクザの佐藤(松田優作)を日本まで護送するも空港で逃げられてしまった刑事(マイケルダグラス)が大阪府警警部補の松本(高倉健)と時に協力し、時に衝突しながら佐藤を追い詰めていく様を、泥臭く描いたこの映画、とにかく出てくるヤクザが悪人としての迫力たっぷりで、東映が築き上げたヤクザ映画観を覆してくれる。

ハードボイルドな映画には雨がかかせない、という当たり前の事実を理解できる。

生きる

2本連続でリドリースコットの、涙も枯れ果てたような映画が続いたので、感動できるタイプの映画をご用意した。
感動できる、なんていうときわめて陳腐に聞えてしまってよくないが、題名通り「生きる」ということの素晴らしさに驚嘆し、感動することができる一本として、私はこの映画を強くお勧めしたい。

1952年公開のこの映画は言わずと知れた黒澤明が撮ったヒューマンドラマ。

定年を間近に控え、ますます日々の仕事に熱意をなくしていた役人の主人公が、末期がんだとしって、なにかを形に残したいと子供たちの遊べる公園を作るために奮闘する姿を描いた作品。
個人的にはクロサワ映画の最高傑作。
黒澤明の監督としての優れた能力もさることながら、NYタイムズをして「世界一の名優」といわしめた主演の志村喬の鬼気迫る演技が、この作品を支えている。

もちろんラストの、完成した公園で、雪の降る夜にブランコに揺られながら歌うシーンも有名だが、土砂降りの雨の中、主人公が公園用地を視察するシーンに注目してほしい。その瞬間に主人公は「生きる」ことを決意したのである。

あなたは「生きて」いるか。それとも「息をしている」だけか。それを強く問うてくるこの映画を観た後、あなたの生き方はそれまでとは幾分違ったものになっているはずだ。

ノスタルジア

心揺さぶられる映画が続いたので、静謐でただただ美しい、そんな映画を用意させていただいた。

ロシア史にのこる映画監督タルコフスキーの晩年の作品である「ノスタルジア」はまんまノスタルジーが主題になっているソ連イタリアの合作映画。タルコフスキーの映画にしては珍しく、そこまで眠くならない。

さまざまなモチーフが、暗喩がこめられている”頭の体操”の側面を強く持つ映画であるとともに、イタリアの映像技術によってさらに高められたタルコフスキー映像世界の頂点ともいえるこの一本、理由はわからないのだけどどこか物悲しい気分になってしまった雨降りの休日におすすめしたい。
あまりにも詩的すぎてあらすじを追うことは困難かもしれないが、ぼんやり「綺麗だなあ、美しいなあ」と眺める感じで観よう。

ちなみにタルコフスキーの“水”描写を超える映画を私は未だに知らない。

耳をすませば

タルコフスキーの「ノスタルジア」のあとに、ノスタルジーつながりでかの有名な「耳をすませば」を紹介する。

紹介されるまでもなく知ってるよ、という人も多いだろう。
タルコフスキーが陰鬱で後悔と諦念にみちたノスタルジーなら、「耳をすませば」は、我々が送りたかった青春(こんなすばらしい中学生活を過ごせる人なんて滅多にいない)への憧憬を掻き立ててくれる、そんな作品だ。多くの場合過去は美化されるものだが、それでもここまで爽やかな青春を過ごせた人はいるだろうか。

ちなみに私は大学一年の夏の終わり、深夜ふとおもいたって、友人とこの映画の舞台になった聖蹟桜ヶ丘までママチャリで出かけたことがある。今でも夏が来るたびに思い出す。夏が終わるたびに懐かしくなる。私にとってのノスタルジーとは、聖蹟桜ヶ丘の牛丼チェーンで深夜二時に食べた牛丼の味であり、夜明けの丘の上の公園で聴いた秋の虫の声である。

言の葉の庭

最後に紹介するのは、まさに梅雨を題材に取った一本。秒速五センチメートルや星の声といった作品で絶大な支持を集める新海誠の「言の葉の庭」である。
美しい光と水の描写と、切なくてノスタルジックなストーリーで人気のアニメ監督新海誠は、疑問の余地なく現代のアニメ界における最前線である。

靴職人を目指す高校生と、人生に疲れて歩みを止めた女性教師がある日、梅雨の新宿御苑で出会う。雨の日の朝限りの逢瀬を続け、心を近づけていく二人。だが二人の思いはよそに梅雨は明けようとしていた……

どんよりジメジメ、家から出たくなくなる憂鬱さでもって特徴づけられる梅雨も、新海誠の手にかかればこうも美しくなるのである。初恋なんてもはや振り返っても見えないほどの遠い過去になってしまったよ、なんてあなたもこれを観ればばっちりだ。雨に打たれることさえ喜びに感じられた、少年時代のあの高鳴りを思い出すことができるだろう。

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