梅雨の文学ー雨の日に読みたい廃墟文学ー

雨と廃墟はよく合う。廃墟の持つノスタルジーと雨の物悲しさが、うしろむきで、過去に引っ張られるような幻想的雰囲気を生み出すことになる。 今回は「雨の日に読みたい廃墟文学」という切り口で、廃墟が印象的な小説を紹介させていただきたい。

黄色い雨 -フリオ・リャマサーレス


出典: blog.goo.ne.jp

いきなりこんなマイナーな作家の小説をおすすめしていいものかと迷ったが、紹介することにする。
この黄色い雨という小説はスペインのフリオ・リャマサーレスという詩人のかいた散文。詩情に浸りたい人向けというかまんま詩みたいな感じの小説である。

廃墟と化した村で犬とともに死をまつ老人を描いたという、言ってしまえばそれだけの小説でワクワクハラハラ要素は一切ない。また、極限にまで読者の想像力の翼を広げにかかる言葉の強さがあるので、読み疲れしてしまう人もいるかもしれない。
けれども本作にはそれを補ってあまりある静かな感動がある。既に死んだ村で死を待つ老人。
死んだ村が、死んだ老人が自然に飲み込まれるとき、死は同時に新たな生でもある。

天空の城ラピュタの廃墟シーンのような、自然に飲み込まれていく人工物が好きな人につよくおすすめ。

ちなみに黄色い雨というのはポプラの枯葉のこと。

沈んだ世界ーJ・G・バラード


出典: www.tsogen.co.jp

気候変動によって温暖化がすすんで海面が上昇し、都市が水没した世界を描いたSFで、作者バラードの燃える世界、結晶世界とならぶ終末三部作のうちの一作。
熱気とけだるさに支配されているという点で、黄色い雨同様に廃墟を描きながらも雰囲気は正反対になっている。

SFといってもややこしい設定は皆無。序盤で義務的に「なぜ世界が沈んでいるのか」という説明がなされるだけである。
それよりも、水没した都市をここまで美しく精密に描写することができるのだということ、そして言葉の一つ一つが、その言葉の意味を超えたふくらみを持ってイメージ喚起するということ、この二点が我々をして驚嘆させしめるだろう。
水没したロンドンのプラネタリウムに潜っていくシーンの美しさは特筆に値する。

完成度でいうと結晶世界に軍配が上がるが、個人的にはこちらのほうが好み。
海というものの、豊穣にしてセクシャルなイメージに身をゆだねて読んでほしい。

火星年代記 -レイ・ブラットペリ


出典: www.hayakawa-online.co.jp

火星に進出した地球人が、植民し、やがては火星から撤退していくまでの27年を描いた年代記。掌編が26編おさめられている。
名作家、レイブラッドベリの名作中の名作であり、星新一はこれを読んでショートショートを書くことにしたという。
たしかに読みやすくて文明批評、ブラックユーモアが豊富な点は星新一に通じるものがある。しかし独特の物悲しさ、抒情性は彼にはない、ブラッドベリ独自のものである。

出色なのが「優しく雨ぞ降りしきる」という短編。人類が核戦争で消えた世界でなお動き続ける家事ロボットを愛情たっぷりに、ノスタルジーたっぷりの描き出したもの。
本作で描写されている、いわゆる“古き良きアメリカ”が、いまや、本当に創作の世界でしか知ることのできない過去になってしまっている昨今、作者が予期していた以上のノスタルジーとともに享受されるだろう。

ザ・ロード -コーマック・マッカーシー


出典: www.hayakawa-online.co.jp

終末世界、正体不明の災害で荒廃したアメリカの大地を父子が希望を求めてさまようというありがちなこの作品をほかにはないものにしているのは、登場人物のセリフに鉤カッコを用いず、地の文と地続きで書く、その文体だ。
これによって、小説自体から客観性が薄れていき、登場人物の心情、セリフ、そして情景描写が連続的に一体化されることになる。

この作品で描かれる世界は、リアル北斗の拳といった様相であるが、かの名高いマンガと決定的に違うのは、主人公の父子が全くと言っていいほど力を持たないということ。
描写が丁寧でイメージを喚起させられる。

ちなみに映画もある。こちらも非常に完成度が高い。

グランヴァカンス -飛浩隆


出典: www.hayakawa-online.co.jp

仮想世界、ヴァーチャルリアリティの世界に作られた、地中海風リゾートが舞台。
一千年前の大途絶によって人類が来なくなった世界で、AIたちは終わらない休暇を過ごし続けていた。
しかしある日、謎の蜘蛛の大群があらわれ、仮想世界を侵食していき、再び時計の針は動き出す……

この小説がすごいのは、冒険活劇的な要素を強く持つSFでありながら、詩的な言語様式でつづられているということだ。そして詩的でありながら同時に、血管の脈動が見えそうなほど白く透明な、生き生きとした、読ませる力のある文章だということだ。

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