雨に生きる花―雨の日はアジサイ、そしてクチナシ―

 

名前を知らない花の名―花を知るということの意味―

我々は、身の回りにある花々の名の一体どれくらいを知っているのだろう。
先の昭和天皇はこう宣った。『雑草という草はない。どんな植物でも、みな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる』
世の中に、否、身の回りでさえ多くの草花が存在しているのに、恥ずかしことにその中で知っている名前はほんの少しだ。

そもそも花の名前など興味もないし、知っていたところで何にもならない。
そう考える人もいるだろう。
しかし、知識というものは意外なところで役に立つ。
教養として身に着けておいて損するものは何一つないだろう。
それに、何の気なしに外を歩くとき、スマホにくぎ付けなるより、見知った花々を見つけるというのも楽しいものである。

今回は、梅雨の時期は都内でもたびたび見かける、鮮やかな水彩画のような青と赤のコントラストが美しいアジサイと甘美な匂いに清廉な白い花弁を持つクチナシを紹介したい。
もしかしたらあなたの周りにも咲いているかもしれない。

アジサイ―紫陽花― 街角でも見かける、梅雨の代名詞

5月の終わりから今の時期にかけて花開くアジサイ。
各地の観光地では、毎年数千から数万の規模で一斉に満開を迎えるこれらがメディアに報じられるし、
身近に咲いている一株で、梅雨の訪れを感じる人も少なくないだろう。

日本の季節、文化にしっかりと馴染んでいるアジサイ。
それもそのはず、意外なことに日本が原産国なのだ。

青や赤、白、紫など多様な色合いを持つアジサイの花。
土が酸性かアルカリ性かでその色味が決まるという。
前者であれば青色、後者であれば赤色になるという。
他にもいくつか条件があるのだがシンプルに捉えるなら土の性質の違いと覚えておけばいい。
ちょうど小学生の頃、理科の実験で使ったリトマス試験紙と逆の色になる。

意外にも、我々が花だと思っている部分は「がく」と呼ばれる花の外側の部分であるようだ。
花は中央にある芽のような部分。
がくばかり発達しているためか、装飾花という型にもカテゴライズされる。
原種であるガクアジサイから品種改良されたのがよく見るアジサイ。
ガクアジサイはさながら花冠のような形で風流である。

花言葉は、
「移り気」「高慢」「辛抱強い愛情」「元気な女性」「あなたは美しいが冷淡だ」「無情」「浮気」「自慢家」「変節」「あなたは冷たい」
ある色のアジサイ特有の言葉や、外国のものも混じっているが、不安定に雨が降る季節に咲く花とあって、あまり良い花言葉ではない。梅雨のアンニュイな雰囲気をそのまま吸い込んだようなラインナップで面白い。

日本原産ということもあり、和歌、文学、絵画、歌謡曲などの日本文化にも濃く馴染んでいるアジサイ。
これからもうまく共生していきたい花である。

季節ごとの象徴をデフォルメし芸術品へと昇華していく和菓子文化。
アジサイもその美的感覚にマッチするものとして取り入れられている。
可愛らしさや鮮やかとともに美味しさを表現したその逸品は見た目にも味覚にも嬉しい。

クチナシ―梔子― 梅雨の日、甘い香りに誘われて。

雨上がり。
どこか澄んでいてクリアだと感じられる空気。
都内を歩いていると、濡れたコンクリートの臭いに混ざって、一瞬だけ甘ったるい香りが鼻腔をくすぐる。
まるで運命の女性に出会ったかのような、そんな感覚。別に運命の女性に会えたわけでもなく、小洒落た匂いを発するお店などどこにもない、ただの一本道。
この6月の雨上がりに、そんな香りをかいだことがあるならば、それはきっとクチナシの香りだ。

街路樹として都内でも植えられている姿を見るクチナシ。ちょうど3分咲きほどに花をたずさえ、上品な甘い香りで路傍にたたずんでいる。
貴方はその花の香りを、そもそもどのような花かしっかりとイメージ出来るだろうか。

白色の花びらが可愛らしいが、夏につれて徐々に黄色になっていく。
その様が見た者に熟れた印象を与えるため、咲き始めの時の清廉な感じとは打って変わって、見栄えが悪くなってしまう。
けれど咲き始めの潔い白色と甘美な匂いは本当に魅力的である。
いつもの通り慣れた道に甘い香りがしたら辺りに白い花が無いか探してみてほしい。

この花は花自体の魅力だけでなく実用的な価値があり、果実は生薬としてや黄色、青色の着色料として染料や食品の色付けに使われている。そういった意味では、実は誰しも親しみのある植物である。

花言葉は「私は幸せ者」「とても幸せです」「優雅」「洗練」「清潔」「喜びを運ぶ」
こちらも和洋の花言葉が混淆しているが、その花の香りと美しさに見合った言葉が添えられている。

先ほども述べたがその強い芳香のため、雨の中でもその香りに気付くことが出来る。
湿った都会の空気に混じり、クチナシの香りがくすぐると何となく心まで華やぐ。
しばしばその香りは、香水のモチーフとして挙げられる。生花を見つけるよりも先に香りのイメージを知りたいと思った方は、香水の専門店などに足を運ぶのもおススメだ。Kai Perfumeのガーデニアがクチナシの香りに近いが、Marc JacobsやChanelなどのブランドでもガーデニアモチーフの香りもある。
どれも女性ものなので敷居は高いが、せっかくだから大切な人へのプレゼントに香水を選んでみるついでにガーデニア、クチナシの香りを覚えておく、というのも洒落込んでいていい。

終わりに

花はいつも意外なところに咲いている。
季節の変化は気温の変化ばかりだけでなく、生ける自然の移ろいの中でも感じることが出来る。
そんな季節の花々を少しばかりだが気にかけてみてほしい。
知らないうちに見過ごしている自然の作り出す芸術に、知識を深めてみるのも良いだろう。

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