カテゴリ: 大人の嗜みガイド

職人、と聞いて思い浮かべるイメージにはどんなものがあるだろう。
頑固でこだわりが強い。自分が100パーセント作らないと気が済まない。作り手のこだわりを何よりも優先する。
職人という言葉の裏には「頑固・偏屈」といった印象が見え隠れする。
職人気質という言葉には実直という意味もある。しかし、どちらかというと愛すべき変人という意味合いで使われることが多いように感じる。

今回取材したRENDOの吉見さんは、そんなイメージを鮮やかに覆してくれた。
謙虚で、履く人のことを第一に考える。作り手の理想よりも、履く人が快適なほうを選ぶ。
そういった、今まで知らなかった職人の姿がそこにはあった。

浅草の靴屋、RENDO

RENDOは2013年にオープンしたビジネスシューズのブランドだ。
浅草に工房兼直営店を持ち、直営店とWEBでのみ販売を行っている。
国産の最高級皮革を使いながらリーズナブルな値段に抑え好評を博す、今最注目のブランドだ。
ブランドの中心となるのは、スタジオヨシミという個人事務所を持つ吉見鉄平さん。

革靴は大きく二種類に分けられる。オーダーメイドと既製靴(レディメイド)だ。
靴作りにはいくつかの工程がある。まず、靴をデザインする。次に、木型と呼ばれる靴の形を決める型を作り、そのあと型紙に起こしていく(パタンニング・Pattern Making)。それが終わると、実際に革を切り、縫い合わせる製造作業がある。

オーダーメイドは多くの場合、これらすべての作業を一人、もしくは数人の職人で行う。履き手が先にいて、その足に合わせて木型・型紙を作る。製造もそれに沿って行われる。結果として、世界に一つ、自分のためだけに作られた靴ができる。その代わり、値段は高い。安くても大体15万円以上はかかる。普段使いの靴にオーダーメイドを買える人はごくわずかだろう。

それに対して既製靴は、できるだけ多くの人に合うように作られる、いわば最大公約数的な靴だ。先に靴があって、その中から自分に最大限合うものを選んでいく。自分の足に完璧にフィットするものがあるかどうかはわからないが、分業による大量生産で値段は抑えられる。

RENDOの靴は既製靴、つまりオーダーではなく大量生産の靴である。
完全分業が当たり前な既製靴業界で、RENDOの靴作りではデザイン・木型・型紙までを吉見さんが担当する。普通、デザインと型紙は同じ人が担当しても、木型は専門の職人・メーカーに任せてしまう事が多い。しかし、吉見さんは有名なオーダーメイド(ビスポーク)の職人に師事してまで木型を作っている。

そんなこだわりの靴作りをするRENDOのオーナー、吉見さんに今回はお話を伺った。

様々な経験を経て、謙虚になるところから始まった

RENDOのオーナーである吉見さんは英国London Cordwainers College で靴制作の基礎を学び、職業能力訓練校台東分校で本格的に靴作りについて学んだ。セントラル靴に2002年に入社。五年間の勤務ののち、2008年に独立。パタンナー(靴のデザインを型紙に起こす仕事)としてフリーランスでセレクトショップのOEMなど多くの靴のパターン作りに携わったのち、2013年にRENDOを立ち上げる。

吉見さんが靴が特別好きだと気づいたのは大学生になってから。高校からの友達と話していて、人が履いていた靴を妙に覚えていることを指摘されたらしい。
「言われてみて、靴がとても好きだったことに気づいた」と靴作りの道へ進んだ。

経歴にある通り、吉見氏は工場勤務、フリーランスのパタンナーと段階を踏んでRENDOの立ち上げに至った。
立ち上げに至る前、いろんな人に関わったからこそ気づいたことも多かったという。
中でも特に、フリーランスのパタンナーとなった後の経験が大きいと語った。
「独立してみて、自分は一人前だなんて思っていたんですけど、会社時代は守られていることが多かったんだなということを実感しました」と吉見さん。
「いろんな人に詰められたりする中で、謙虚にならざるを得なかった。たとえば靴業界って、教科書があるわけじゃない。いろんな人がいろんな言い方で説明する。それが矛盾していることだって往々にしてあるけど、聴いてみるとどれもその人の立場からすれば正しかったりするんです。」
だから、指摘されたら必ず一回その指摘に基づいて直してみるという。
「一回直してみて、自分が間違ってたんだなと思うことも沢山ある。やってみてやっぱりおかしいなって思ってから言えばいいし。」
靴作りの現場は人と人のやりとり。だからこそ吉見さんは、「この人となら気持ちよく仕事ができる」そんなパタンナーであるよう心掛けているという。

一人で靴を作っているわけじゃない

その謙虚さが、RENDOでの靴作りにも大きく表れている。
自分のエゴを押し付けることはしない。
自分が良いと思ったものでも、工場からの意見を必ず一回検討する。

「自分一人で靴を作っているわけではないから」と語る吉見さん。
設計はしっかりやるけれど、工場に任せるところは任せるのが吉見さんのやり方だ。

「靴作りには様々な工程があって、僕はデザイン・木型・パタンニングと販売を担当している。実際に僕の設計を形にするのは工場の人。僕一人がうるさくいっても仕方がないこともある。」

吉見さんの言葉には、共同制作者である工場への信頼がにじむ。
「もちろん急所っていうのはあるんで、こいつうるさいやつだな、と思われてるかもしれませんけど」と笑いながら話してくれた。

RENDOの靴は、前職であるセントラル靴の工場で作られている。
よく知った工場だからこそ、信頼して製造を任せられる。
良い靴を作るには、工場との意思疎通が重要だ。
お店が工場と連動していくことで靴は良いものになっていく。

吉見さんは自身の経験から「いいブランドの方は、工場に頻繁に顔を出していた」とも語った。
担当者だけが担うようになってしまうと、伝言ゲームのようにだんだん微妙なずれが生じてくる。
設計や販売担当の人が実際に作る工場としっかり話して、ずれが起こらないようにすることでいい靴ができる。

設計・デザインを担当する吉見さんが自ら工場に行って、実際に作る職人と話す。
また、工場からフィードバックをもらって、自分の制作に反映する。
そうした良い関係がRENDOの靴を作っているのだ。

ブランド名のRENDOは、「連動」が由来だ。後付けだといいながらも、吉見さんはこう語った。
「工場や仲間と、うまく連動して靴を作っていけたらと思うんです。」

お客さんの顔が見えること

先述の通り、RENDOはデザイン・木型・パターンを担当する吉見さんのブランドだが、販売をしているのもまた吉見さんだ。つまり、製造以外の工程は全部吉見さんとスタジオヨシミのスタッフが行っている。採寸も彼らが店舗で行う。

実は、デザイナーが販売するというのは既製靴ではかなり珍しい。分業制が当たり前で、デザイナーが販売の現場に出ることはめったにないのだ。
RENDOを立ち上げてから、販売を担当してはじめて分かったこともあるという。
お客さんの反応が実際に見えるからこそ、お客さんがどこを気にしているのかが分かる。
「設計だけして実際にお客さんの反応が見れないっていうのは、もったいないなと思うんです。」

作り手ありきではなく、履き手がいてこその作り手だ。オーダーメイドにも通じる考え方である。
工場で働いているときに、デザイナーのこだわりに対して「お客さんそこ気にしてないよ」と思ったこともある。
そういった経験を経て、作り手の理想よりも履く人の快適さを追求するRENDOのスタイルが出来上がったのだ。

また、店舗に足を運んだお客さんでも、足の形が合わないときは正直に「うちの靴は合わないみたいです」と伝えるようにしているという。
「どうしても既製靴で木型が一個しかないので、お客さんによって合う合わないはある。ゆくゆくは木型を増やしていければいいと思っているんですけど。」と吉見さんは語った。
履く人のことを考えたら、合わない靴を勧めることはできない。ここにもユーザー目線が表れる。

そんな吉見さんが一番嬉しいのは、リピーターの方が買いに来てくれる時だという。
「リピーターが買ってくれるっていうのはこんなに嬉しいんだなあって気づきましたよ。」
作り手自らお客さんの反応が見えるからこそ、喜びもひとしおだ。
「たまたま僕の木型が合っていただけなんですよ、とは伝えるようにはしていますけどね。」と、吉見さんはどこまでも謙虚な姿勢を崩さなかった。

できるだけ多くの人に履いてもらいたい

靴作りの究極はオーダーメイドなのではないか、そんな先入観があった。
お店を持ってお客さんと直接話をして、販売する。実はこの形の靴屋というのは、かなりオーダーメイド的なアプローチであるといえる。
そんな中で、吉見さんはレディメイドにこだわっている。理由を尋ねると
「多くの人に履いてもらいたいから」と答える。
「オーダーメイドにしたり、卸に出してしまうと、この値段で出すことはできない。多くの人に履いてほしいし、多くの人に評価をもらいたい。」

RENDOの靴は、一律42120円。品質を考えたらかなりリーズナブルだ。
できるだけ多くの人に履いてもらうため、ぎりぎりの値段設定だという。
「本当は値上げしてしまいたいけれど、この値段なら何とか買えると言ってくれるお客様もいるし、この値段で頑張りたい」と、吉見さんは語ってくれた。
それも、店舗での直接販売と、インターネット販売のみに流通を限定したからこそできる価格。
最高級の革を使い、同価格帯の他の製品より頭一つ抜ける履き心地という評判だ。

吉見さんは、いいものを作りながらも、安価・大衆的であることにこだわりを隠さない。
「オーダーメイドをやってみたい気持ちは少しはあるけど、どちらかというとプライベートブランドが自分にとって理想の形かもしれない」と話してくれた。
いまやりたいことは、既製靴で、大量生産するという制限がある中、ユーザーに一つの選択肢を示すこと。
吉見さんの靴作りは既製靴業界に一石を投じる。

おわりに、「縁」について考えながら

吉見さんの話を聞いていると、「縁」という言葉について深く考えさせられた。
「周りのおかげで」「たまたま声をかけてもらって」など、自身が縁にいかに恵まれているかを話してくれた。

取材の最中にも通りがかった同業者に手を振り、
「あれ、オーダー靴作ってる人たちなんですけど、いつもだったらふらっと入ってきて、コーヒーをご馳走してくれるんですよ」という。
商売敵とも言えるが、どちらかというと同じ靴好きの仲間という意識だそうだ。

吉見さんが縁に恵まれるというのが納得できる気がした。

靴の一大生産地、浅草という土地で店を持つこと。
そのことにこだわりはあったのかと尋ねると、これも後付けだけどと笑いながら、吉見さんはこう語った

「まだ店は少ないですけど、ここ(浅草)で自分の店を持って、靴を販売する。そういう流れがいろんな人に派生してくれれば集客もできる。結果的にそういう町になっていけばいいな、なんて思います。」
今年で3年目になるまだまだ新しい店舗に、古き良き下町の人情が垣間見えた。

「靴を買わなくても、お店に来て話しかけてくれたらうれしいです。」と語った吉見さん。
下町浅草に用向きの際は、ぶらっと立ち寄ってみてはいかがだろうか。

今回ご協力頂いたRENDOの公式サイトはこちら

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