ビンテージを探しに、ヒップスター達はポートランドを目指す。

「35歳以下の世代に最も住みやすい都市」として全米一位になったポートランド。理由はいろいろあるけど、その一つがビンテージ・ショップ。この小さな街には50軒くらいのビンテージ・ショップがある。何しろ、ヒップスター達のファッションと言えばビンテージ・クロージング。今、ポートランドは最もヒップスターな街の一つと言われている。

ポートランドは本当にヒップスターの聖地なのだろうか。

実のところ、ポートランダーの多くは自分がヒップスターだとは決して思っていない。ファッションであれカルチャーであれ、今のトレンドや世の中の流れは我関せず、素知らぬ顔なのがポートランダー。と言っても決してカウンター的なアティテュードではない。この街でいわゆるブランド物を着る若者を見掛けないのは、スタイルをお金で買おうというのがクールじゃないというのもあるけれど、そもそも洋服にはそんなにお金をかけないのだ。それよりビンテージから掘り出し物を見つけ、自分らしくこなすセンスがカッコいいと感じているのだと思う。流行っているからではなく、あくまで自分のスタイルを貫くことにこだわる。だが、それこそが本来ヒップスターの条件であったはずで、結果的にビンテージがこの街の「主流」になってしまったとしたら、少し皮肉ではある。

ビンテージが支持されるのはクリエイティブな街。


写真:「Fringe Vintage」には50〜70年代の洋服や雑貨がとてもいい状態で並べられている。

ポートランドが注目される切っ掛けとなったパール地区。そこから程近い、でも人通りのない界隈にある「Fringe Vintage」。久々に訪れるとオーナーのロビンはひとり店で繕い物をしていた。雑談の中で、何故ポートランドでビンテージが人気なのかを尋ねてみる。ロビンは手を止めて、「ビンテージが支持されてきたのは、ポートランドがクリエイティブな街だから」と即座に、とてもはっきりした口調で答えた。だからポートランドには創造的な感性を持った若者が集まってくるのだと。


写真:「Finge Vintage」の半袖シャツは30~40ドル、Tシャツ20ドル程度。旅行鞄はビンテージアイテムの定番。

それにしても、どうしてビンテージなのだろう。一枚のドレスシャツを手に取り、ロビンは言う。「これは40年代の物だけど、今でもまったく通じるデザインだと思わない?」それから、あくまで私見だと断りつつ、昔の服がいかに創造性に富んでいるかを話してくれた。さらに「現代のファッションはすべからくコピーで、どんなブランドもそのアイデアソースのほとんどはビンテージにあると思う」と続けた。

実は、この数年でFringeの常連達は激減してしまった。家賃の高騰でこのエリアから出て行かざる得なくなったのだ。前は店でライブをやったり、レジの奥を音楽スタジオにして楽しかったと、ロビンはちょっと懐かしそうだった。ポートランドのジェントリフィケーションのことは前回も書いたけど、やっぱり人気都市になることで失っていくものもあるのだ。Fringeの品物はきれいで、綻びなどがあればきちんと繕っている。物に対する愛情、それもビンテージの大切な要素なのだと思う。

Individualであること。自分のスタイルを持つこと。

写真:ビンテージの定番ペンドルトン・ウールンミルズのプレイド・シャツ。ペンドルトンはポートランドから5時間くらいの所にある街の名前。

ダウンタウンの「Living Threads Vintage」。コアなビンテージファンからツーリストまで幅広い人気がある。ここでオーナーのトラビスから、ロビンとまったく同じ言葉を聞いた。人がビンテージに惹き付けられる理由、それはクリエイティビティなのだと。
「ポートランドの人達にとって大切なのはIndividualであること。独自性や個性を表現するのにビンテージの服はすごくいい。ポートランドにビンテージ・ショップが多いのは、そういうユニークな物を求めている人が多いってことだと思う」とトラビス。

写真:「別の何かになるのではなく、自分のスタイルを持つことが大事」と、トラビスは語る。

ポートランドではコスチューム・ファッションのように着る人はそう多くない。全身ビンテージで固めるのではなく、手持の物と組み合わせてアレンジする。頑張り過ぎないカジュアルさがポートランド的であり、トラビス自身もそういうスタイルが好きだと言う。だから彼の店にはいろんなタイプの人達がやって来る。年代を超えて着られるのもビンテージの楽しさだ。


写真:ダウンタウンにある「Living Threads Vintage」は特にビンテージ・ファンじゃなくても気軽に立ち寄れる店。

ビンテージはクリエイティビティを見出そうとする行為。

ビンテージはファッションだけではない。たとえばポートランドにはレコードショップもすごく多い。それは昔の曲を聴きたいとか音質が好きというプラクティカルな理由もさることながら、レコードを大切に持って帰り、プレーヤーで掛けるというアクティビティが好きなんじゃないかと思える。
何であってもポートランダーは機能や合理性、ブランドネームなどに保証されたロジカルなメリットより、個人的でエモーショナルな魅力を大事にする傾向が多分にある。トレンドは消費社会の生み出す人工的な現象である面は否めないが、ビンテージを選ぶことは文化の時代性を愛し、物を通してクリエイティビティを見出そうとする行為なのかも知れない。

写真:40年以上続くレコード店「Music Millenium」の視聴用のビンテージの床屋椅子。店内でライブも演っている。

さまざまに変わりゆくポートランドで、いずれビンテージ・ファッションも廃れていくのだろうか。そうかも知れない。しかし、今の時代よりずっと自由な感性で創られた、キッチュでどこかファニーなビンテージの品々を見ていると、ポートランダー自身とまったく重なって見えてくる。それは変わらずにいてほしいと願わずにはいられない。

(文・写真:百木 俊乃 ポートランドの暮らしブログ365Portland.com編集人。コピーライター、クリエイティブ・プロデューサー。日本とポートランドをつなぐプロジェクトの企画プロデュースを行っている)

写真:イーストサイドのビンテージの殿堂的な「house of VINTAGE」。洋服はもちろん、家具、雑貨、本、レコード、あらゆるものが所狭しと置いてある。

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