イギリスのクラフトビールを日本に伝えたいーCAMPION ALE、ジェームス氏の情熱ー

2015年、クラフトビールが流行っている。作り手のバックグラウンドやビールにかける情熱、そういったものへの注目も含め、クラフトビールは徐々に存在感を増している。 創り手たちシリーズvol.5となる今回は、浅草にオープンしたブルーパブ、CAMPION ALE。代表のジェームスさんに話を伺った。

ブルーパブ(Brew Pub)とは

ブルーパブというものをご存知だろうか。

ブルーといっても、青いわけではない。Brewing(醸造)のブルーだ。
ブルーパブとは、ブルワリー(醸造所)に併設し、その場でビールが飲めるパブのこと。マイクロブルワリーがパブを持っているという形が多く、クラフトビールを一番美味しく飲める場所として、北米などではかなり一般的な形のパブだ。

ビール工場に工場見学に行って、その場で作ったものを飲んだことはないだろうか。作りたてのビールはいつもよりおいしかったはずだ。実は、ビールは劣化しやすく、輸送時の揺れや温度変化によって味が劣化してしまうものだ。だから、一番おいしいビールを飲めるのは作っている場所なのである。
本当においしいビールを飲みたかったら、ブルーパブに行くべきなのだ。

日本ではまだまだマイナーな存在だが、近年のクラフトビールブームも相まって、ブルーパブは少しずつ数を増やしている。今年はキリンビールが大規模なブルーパブを代官山に作ったことでも話題になった。
今回は、そんな本格ブルーパブとして2013年に浅草にオープンしたCAMPION ALEのオーナー、ジェームス・ウィリアムスさんにお話を伺った。

浅草のブルーパブ、CAMPION ALE (カンピオンエール)

CAMPION ALEは日本語が流暢なイギリス人、ジェームス・ウィリアムスさんが作ったブルーパブ。浅草雷門からほど近く、下町情緒あふれる場所にあるブリティッシュスタイルのパブだ。自家醸造のエールスタイルビールと、イギリスのパブ料理を味わうことができる。

ジェームスさんは、大学卒業後の旅行で来日し日本に惚れ込み、山形の中学校で英語を教えるプログラムに参加。その後、東京でコンサルティング会社に勤務。働いているうちに、「日本にブリティッシュスタイルのパブを作りたい」と一念発起。ロンドンに一時帰国し、ブルーイングスクール(醸造学校)で一から修行。2013年にCAMPION ALEをオープンした。

イギリスのエールスタイル

ビールのスタイルは、発酵方法によってエール(上面発酵)、ラガー(下面発酵)に分けられる。それぞれエール酵母(常温発酵)、ラガー酵母(低温発酵)を使って発酵する。エールは香りや味が強く出やすいビール、ラガーは低温発酵のため雑味が少なくスッキリとした味わいのビールとなる。

日本やアメリカの大手メーカーが作るビールは、ほとんどラガースタイルのピルスナーと呼ばれるもの。それに対して、クラフトビールの主流はペールエールと呼ばれるエールタイプのビールとなる。今回取材したCAMPION ALEは、お店の名前の通りエールスタイルのビールを提供している。ラガースタイルのビールがのどごし命で、キンキンに冷やして飲むのがメジャーなのに対して、エールスタイルはそこまで冷やさなくても美味しく頂ける。

「うちのビールは、グラスの中で少し温まっても美味しく飲める」とジェームスさん。
手や室温でビールが温まると、それだけ味や匂いが強くなるように感じるのだ。

「もともとイギリスではビールはそんなに冷やして出していなかったからね」とのこと。

今のように冷やしたビールが一般的になるのは、冷蔵庫が普及してから。日本でビールといえば冷蔵庫の普及以来だが、ビールの歴史は長い。冷蔵庫ができる以前から受け継がれてきたエールスタイルのビールは、冷やさなくても美味しく飲めるのだ。

ブリティッシュスタイルへのこだわり

「ブリティッシュパブを日本に紹介したい」と言うCAMPION ALEのこだわりは、とことんブリティッシュスタイルであること。材料の麦芽(モルト)・ホップはイギリスから輸入したもの。ジェームスさんが情熱を注ぐイギリスのエールの味を完璧に再現する。
机もすべてイギリスから輸入したもので、パブの雰囲気を作るのには欠かせない。
「イギリス人のお客さんが来ると、必ずこの雰囲気を懐かしがって、パイントで頼んでくれる」というジェームスさん。パイントはグラスのサイズで、CAMPION ALEではここでもイギリス流のパイント(568ml)で提供するというこだわりだ。(アメリカのパイントは473mlなので、アメリカよりも大きい!)

イギリスのパブは若者が軽く集まってお酒を飲み、友達やその場であった人と話せる場所。
ビールを片手に気のおけない仲間と談笑できる場。

下町浅草に突如現れる英国のパブ。
「ビールの味とブリティッシュパブの雰囲気、どちらもないといけない」と故郷イギリスのスタイルを追求するジェームスさんのこだわりには、本場からのお客さんも納得だ。

雰囲気があるからこそ、ビールの美味しさが際立つ。逆もまた然りだ。
どちらも欠かすことができないCAMPION ALEの魅力である。

行くたびに違う味、それがカンピオンエールの魅力のひとつ

CAMPION ALEの店内に入ると、最初に目に入るのはガラス張りの醸造所。こんな近くでお酒を作っているのか!という感動がある。ガラス張りなので醸造する場所がしっかり見える。週で一回、この中で仕込みを行うそう。昔見たことがある大手の巨大な工場とは大違いだ。なんとなく、ビールに親近感が湧いてくる。

小規模醸造なので、行くたびに出ているビールが変わるのもCAMPION ALEの魅力だ。用意しているビールは、3-5種類。1つのタンクで作れるのは300リットル。おおよそ530パイント分である。一週間に一種類必ず仕込み、減りなどをみながら新しいものを出す。仕込み始めてから3週間~1ヶ月ほどでお店に出すことになる。
ビールの種類は、レギュラーで出しているビターとポーターの2種類に加え、季節や気分(!)で新しいものをお店に出す。

「夏は暑いからアルコール度数の低い軽めのもの、冬は少しアルコール度数の高い、重めのものを出すようにしています。」とジェームスさん。

取材した日は、ジンジャー・ブラウン・ビターの三種類が店頭に出ていた。普段はポーターという黒ビールもレギュラーで出しているが、切らしてしまっていたそう。こんな風に、思ったより早く売れてしまって切れてしまうといったことも時々起こるそうだ。
「今日は何があるかな、とかちょこちょこお店に残りを見に来てくれたら嬉しい。」とジェームスさんは語る。
いつも同じものがあるわけではない。偶然を楽しむというのもひとつの楽しみ方だ。
そんなCAMPION ALEには、リピーターも多い。行くたびに味が変わるなら、何度も足を運んでしまうのは納得だ。

また、お店のビールには飲み頃があり、CAMPION ALEのtwitterには「まだ若いので来週くらいに飲み頃になると思います」や「今が一番美味しいです」といった言葉が並ぶ。
カンピオンエールでは、ビールの酵母がタンクに残っているため、お店に出ている間も熟成は進むのだ。
ビールを作るのは人だが、同時に酵母菌という小さな生き物だ。あくまで農業の延長であって、工業製品なんかでは全くない。そんなことを改めて実感してしまう。

ブルーパブって、すごい。

これは飲まねば!ということで、試しに編集部メンバーがビールを飲んでみた。

まずは定番のビター。ビターと言われて想像するほど苦くはない。イギリスのビールはどちらかと言うと味の輪郭がそこまではっきりしない感じなので、そんなものだろうか。ホップの味が少し強いように感じた。

もう一つはブラウン。取材の日、ブラウンは残り少なくなっていて、ハンドポンプで出してくれた。飲む前から麦のいい香りを感じることができる。少しまろやかな口当たりで、香ばしい麦の香りが口全体に広がった。
どちらもアルコールは4.3%ほどと、お酒が弱い人にもやさしい度数。普段飲んでいるラガーよりも、少しだけ高めの温度で提供され、のどごしよりも味を楽しむビールだ。

そして、どちらも美味しい。
主観的な意見で恐縮だが、最近買っていた缶や瓶のクラフトビールと比べ、段違いで美味しい。
もちろん人によって好みはあるので一概には言えないが、移動や温度変化による劣化がないことに加え、ジェームスさんこだわりの味が素晴らしいのだろう。今まで飲んでいたビールとは全く異なる味だった。

日本のクラフトビールの未来

最後に、昨今の日本のクラフトビールブームについてどう思うか、と聞いたところ、
「このブームは嬉しい。僕にとってもチャンスだし、何より日本で飲めるビールの数が増えるのが嬉しい。」と答えてくれた。日本のクラフトビールは品質面で世界的にも注目されている、とも教えてくれた。

大手がクラフトビールに参入することについても、「多くの人がクラフトビールについて知る良い機会だと思う。もっと多様性が増えてくれたら。」と、共存を目指していくようだ。
先日の記事にも書いたように、大手がクラフトビールを作ることには議論の余地があるのかなと思っていたが、いささか狭量な考えだったのかもしれない。

「日本でも、ビアバーとかビールの種類が増えてきて嬉しいけど、まだ東京だけ。大阪や名古屋にも増えていてほしい。スーパーやコンビニにももっと色んな種類のビールが並んでほしい。だから、もっと大きい、たくさん流通できるようなブルワリーも増えてほしい。」
と話してくれたジェームスさんから、競争や商売といったものを超えた、ビールへの深い愛を感じた。

大手だったり、マイクロブルワリーだったり、ビールづくりのあり方はいろいろだ。
しかし、どの創り手にもビールへの愛がある。

2015年は、クラフトビール元年とも呼ばれる、クラフトビールブームの年だ。
「ブーム」という言葉には、否定的なニュアンスが入り込むことがある。
一定期間盛り上がって定着しないというイメージもあるし、メディアや広告に踊らされている、と言ったイメージを持つ人もいる。
しかし、ジェームスさんのように美味しいビールを提供しようと追求する人がいて、美味しいビールを飲みたい人がいる。この流れが続くうちはクラフトビールは増えていくだろうし、一過性のブームではなく、定着していくのではないだろうか。
いつか、「浅草はビールが美味しい」「いやいや、高円寺のほうが」といった会話が現実になったら、楽しいだろうなあと想像する。

こんな記事を書いていたら、ビールが飲みたくなってきた。
読者の皆様も、CAMPION ALEに一杯飲みにいきませんか。

今回取材したCAMPION ALEの公式サイトはこちら

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