伝統にこだわる夏の『涼活』―扇子にこだわる―

今年も容赦のない暑さがやって来た。古来より日本では扇子を用いて涼を感じる文化があった。近年その価値も見直され、街の至る所でその扇ぎ姿を目にするようになった扇子。この夏は日本人らしく和の小物にこだわってみようじゃないか。

今年の夏、それは浴衣の夏


今年の夏、それは浴衣の夏|「伝統にこだわる夏の『涼活』―扇子にこだわる―」の1枚目の画像

photo by Norio NAKAYAMA(on flicker)

最近都内で浴衣のカップルを見かける。それも花火大会もお祭りも開かれているわけでもない平日の夜や休日に、である。
浴衣女子が割引してサービスを受けられたり浴衣参加を呼び掛けたりするイベントが増えた影響だろうか。
非日常なハレの日だけではなく日常的なケの日にも着られることが当たり前の和服という認識で、女性を中心に徐々に受け入れられている。
男の身としても、女の子と都内のイベントに行く予定があるのなら、さらりと着られる浴衣の一つを浴衣女子のエスコートのために持っていた方がいいのかもしれない。
もしかしたらアクセトリー読者の中には、先んじて普段からそういった和のモノを生活や身の回りの小物にすでに取り入れている方もいるのではなかろうか。
とはいえ多くの読者はそういうものから縁遠かろう。

いつもなら珍しげな和服たちも、夏となれば話は別だ。きっちりと着こなして今年の夏を満喫してやりたいが……。

やっぱりどこか手を出しにくいというのが本音。

だからこそ、着物に手を出すのはチョット気が引けるというのなら、
和のテイストを身の回りに出していくという観点で、扇子を持つことを提案したい。
浴衣が難しいのなら、扇子に本気でこだわってみようじゃないか。

浴衣あらずとも扇子をば持て


浴衣あらずとも扇子をば持て|「伝統にこだわる夏の『涼活』―扇子にこだわる―」の1枚目の画像

photo by Oimax (on flicker)

男としてのこだわりを小物にかける。というのは時計にせよ靴にせよネクタイにせよ万年筆にせよ、抗えない性であろう。
物に自分の思いを、センスを込めるということは、自分自身の態度や振る舞いにも自然と”説得力”を出すことに繋がる。

そんなこだわりに季節感を添えるために、夏は扇子を持ってみたい。

もしも室温の高い部屋の中に居たとしても、そこが扇いで良い場所であれば涼やかに振る舞える。言うなれば扇子は夏の自分に心の余裕をもたらしてくれる存在だ。
うちわには無い携行性、デザインとしての優美さ、ほのかに香る香木がそよぐ風に乗って鼻腔をくすぐる。
安く買えるものも確かに存在するが、こだわりを突き詰め自分なりの一本を手に持てば、扇ぐという行為にすらどこか品格を付随させることだろう。

扇子の歴史、材質を見んとす。

幾本もの木やプラスティックによって形成される「骨」
紙や布で面積を出すことで、風を作り出す「扇面」
閉じた扇の広がりを防ぐ効果もある紙やゴムで出来た輪「責」
そして扇において最重要な存在、骨を根元で束ねておく「要」
基本的にこの四つが組み合わさり、扇を成している。

傘であれ、扇であれそのメインフレームの名を生物でいう所の「骨」に当てるという考え方は古き人々の面白い感性だ。
貴方は扇子がどこで生まれたか知っているであろうか。実はこの美しくも機能的な小物は日本文化の中で生まれたらしいのである。


扇子の歴史、材質を見んとす。|「伝統にこだわる夏の『涼活』―扇子にこだわる―」の2枚目の画像

檜扇 photo by Emily Smith (on flickr)

最初は檜扇(ひおうぎ)と呼ばれる細長い木の板を扇状にまとめたものが奈良の終わりから平安の始めに開発されたようだ。これは現代でも皇族の婚礼装束の小物として存在している。
現代の扇子のように扇ぐことが用途ではなく、有力な説では重要な儀式における覚書として用いられていたようであり、貴族の必需品として定着していった。
紙が貴重であった時代性を鑑みれば納得である。

その後平安中期になると現在のように細い骨を持った扇が登場する。紙が一面にのみ貼られたこの扇は、扇いで涼を感じるだけでなく、先ほどの儀礼の際や贈答ものとしての役割のほか、和歌などを書いて相手に贈るといったコミュニケーションの手段としても用いられた。
このように多くの形式や用途の中に馴染んでいった扇子は、次第に身分を問わず日本人の代表的な小物として定着していったのである。


扇子の歴史、材質を見んとす。|「伝統にこだわる夏の『涼活』―扇子にこだわる―」の4枚目の画像

絵画としても鑑賞に堪える扇子 photo by THOR(on flickr)

絵が記されているというその美術性も人々に受け入れられ、扇の形をした紙に描写する扇絵と呼ばれる日本画の形式が生まれたようだ。この扇絵を得意としたのが、『風神雷神図屏風』で有名な俵屋宗達。彼は江戸時代におけるデザイナーとしての一面もあるようで、彼の工房の絵が描かれた扇子は飛ぶように売れたという。

扇いだ時に香りがするように、あらかじめ香を焚きしめて匂いを移しておいたり、骨の部分に香木(白檀がメジャー)を用いたりする場合もある。香木は紫外線に弱いので、必ず扇子入れを持つようにもしよう。
売り物の段階で付いていた匂いが消えてしまった場合は再度香りの強いものの近くに置いておくことで匂いを移すこともできるし、骨が香木であればにわかに表面をやすることで復活させるといったことも可能である。(形状変形、破損は保証しかねないが)
やはり和の小物には和の香りを持たせておくべきであろう。その際は奥ゆかしく、やおら香る程度にとどめることを忘れずに。

ではどの程度のレベルの扇子を買えばよいのだろうか。

理屈は分かったが一体どのくらいのお値段のものを手に取ればよいのだろう。
正直このことに関しては、ピンからキリまで存在するのはどんな小物でも一緒だ。
その上で、良い扇子を見極める「審美眼」と自分の「懐事情」とを見比べて良しとしていただきたい。
最初に審美眼。

・扇子を手に取った時の重さ。
・ほつれや塗装の甘さ、要の締まりはどうなっているか。
・扇子を畳んだ時にきちんと閉じるか。
・扇子の縁取りに扇面の絵が見切れていないか。

このようなところを注意深く見てほしい。
特に持った時の重量感。安い扇子になればなるほど、軽く身の詰まっていない骨が使われているため、手にしっくりは来ないだろう。
実際に手に取ってみないと分からないのが扇子の難しいところではあるが、そこは身にまとうものの性ということで納得せざるを得ないことではある。

お次はお値段。
これは1000円の安い値のものから、数万円以上と値が張るものまである。
良いものを失敗せずに買いたいのであれば、4~5000円台のものを買えば間違いないだろう。
こだわっていると思える(財布から出しやすい)価格帯もそうだが、なにより種類が多いため、自分なりの一品を見つけることが出来るだろう。
先ほど触れた、香木をあしらって作った扇子に関してはかなり高い値がついている。
基本的に5000円程度の価格帯で香木と銘打っているものはしっかりとその材質を確かめた方が良い。
恐らくはただそれらしい香を焚き染めたものであろう。
気を付けてもらいたい。

最後に

扇子は日本古来の文化であるとともに、生活に馴染んだごくごく当たり前のものであった。
古き良き日本の文化が再認識されるこの世の中、当たり前に扇子を使うことから、貴方なりの和の追究を始めてみては如何だろう。
夏祭り、花火大会など、その環境に合わせて扇子を使うというのも良いが、
むしろ環境に気を使って扇子を使うというのもアリだろう。
つまり電気のみを使って涼むのではなく、ちょっと部屋の温度を上げて扇子でその釣り合いを取る。
そんな風に環境にも気を使って、夏を乗り切るのも乙なものである。

貴方らしい夏の涼を見つける一助になれたなら、幸いである。
それでは、アツく涼しい、良い夏を。

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