ポートランドの街を知る、ちょっと変わったNPO。

暮らす街のことをどのくらい知っているだろう。家と仕事場を往復する生活で、住む地域への関心がすっぽり抜け落ちていないだろうか。ポートランドはコミュニティ意識がかなり強い街。無関心は自分に跳ね返ってくると分っているからだ。そんな街で「Know Your City」は地域を知るための活動をまじめに、そしてかなり楽しくやっているNPO。彼らはどんなふうにコミュニティに関わっているのだろう。

Know Your Cityで発見するポートランド。


Know Your Cityで発見するポートランド。|「ポートランドの街を知る、ちょっと変わったNPO。」の1枚目の画像

©KnowYourCity

Know Your City(KYC)は一風変わったツアーやコミックを通じて、もっと自分の街を知ろうというNPO。ポートランドで6年前から活動している。発起人はマーク・モスカート(38歳)。大学時代、彼は仲間と集まってZineやレコードのアイデアをシェアして刺激に満ちた日々を過ごした。名門校を卒業し、そのまま大手TV局に就職、暫くはMTVのプロジェクトに没入した。だが、徐々にテレビ局の現実に違和感を持ち始める。テレビには車やジャンクフードが溢れ、サスティナブルとは正反対のライフスタイルを売りつけるものだと感じた。「1時間かけて自転車で通勤するようなタイプの僕には全然合わなかったんだ」。


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KYCの創立者のマーク。ポートランドに来たのはフィルムの仕事が切っ掛け.。「クリエイティブで活力のある街だったから」。

住民のためのツアーが観光客も呼び寄せる。

20代後半になってマークはアートのマネジメントやキュレーションを学び直し、その後ポートランドで様々なNPOに関わっていく。だが、彼自身がKYCを始めた切っ掛けはリストラだった。職を失った時、漠然と頭にあったコミュニティのための活動を思い立ったのだ。だが、どうやって? 最初は学生時代に経験したアーティストが交歓できる場づくりを考えた。その資金集めとして考えたのがツアー企画、アメリカ大恐慌時代の芸術家雇用施策(WPA)による建築物や公共プロジェクトを回るユニークなものだった。予想をはるかに上回る参加者が集まり急遽ウェブサイトを作り、その勢いでKYCを立ち上げるに至った。


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KYCがあるポートランドのユニオン駅。古い駅舎の上にオフィスがある。

KYCのツアーは独創的だ。「シンガーソング・ポートランド・ツアー」は、ガイドが楽器片手にポートランドゆかりの曲を唄いながら街を歩き、音楽シーンを通してポートランドを知る楽しいツアー。一方、「ピープルズ・ヒストリー・ツアー」では大戦時の日本人をはじめマイノリティが辿った辛い経験にまつわる場所を回り、ポートランドの知られざる歴史を紹介する。


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ガイドの一人サム・クーパーはローカルミュージシャン。

哀しい過去もあるけれど、ポートランドは変わっていった。

街のネガティブな側面を参加者はどう受け止めるのか気になるが、マークは言う。「お決まりの観光ではなく真実を知りたい人達は少なくない」そして「僕たちのツアーのゴールは社会は変わっていくことが出来ると知ってもらうこと」だと。 ポートランドにはダークな過去もあるし、脚光を浴びる今だって当然いろいろな問題もある。だが、人々の意識によって舵を切り、大きく変わっていった街であることは間違いない。住民のために始めたツアーはツーリストの参加が多くなった。


Know Your Cityで発見するポートランド。|「ポートランドの街を知る、ちょっと変わったNPO。」の11枚目の画像

社会活動家キャメロン・ホィットンはKYCのボードメンバー。自転車で移動するインフォメーション・キオスクは彼らのアイコン的な役割。

KYCの活動のもう一つの柱はコミック。歴史レクチャーに参加したマークは歴史に関する本や資料がすごく退屈に感じ、歴史コミックを作ろうと思い立つ。そしてソーシャル・ファンドで資金を集めて10冊のZineを制作。Powell書店(ポートランドにある世界最大の独立書店)の朗読会には300人も集まり驚かされたという。


Know Your Cityで発見するポートランド。|「ポートランドの街を知る、ちょっと変わったNPO。」の13枚目の画像

「オレゴン・ヒストリー・コミックス」10巻。 人々から見て重要な事柄をテーマにしている。


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コミックフェアで。右はシリーズを書いたサラ。

コミュニティに育てられるポートランドのNPO。

人々が参加する場をつくる社会活動クリエイティブ・プレース・メイキングがKYCの根幹だ。彼らの特徴は狙いをもって仕組んだのではなく人々の支持によって自然に作られていったということ。初めは目的もクリアではなかったが、自分たちのアイデアに答えてくれる人々がいて、また何かやってみるとそこに反応が返ってくる。その繰り返しで活動の形が出来上がっていった。


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新しいコミックシリーズ「Comics For Change! 」のお披露目パーティ。

ソーシャルな活動を楽しく続けることは簡単ではないが、こういう肩の力の抜けた方法が可能なのはポートランドらしいと言える。どんなに素晴らしい目的でも、あまり正義感やこだわりを押し付けられると引いてしまう。また、マーケティング的に仕掛けられたのではなく、地域から自発的に生まれたものが共感を呼ぶのかも知れない。当事者が発するほど強いものはないのだ。KYCの場合はWPAプロジェクトや音楽、マイノリティの歴史などポートランドの特徴を興味深くフィーチャーしたことが支持された理由の一つだろう。


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ボランティアのスタッフ、ジュリア。NPOの活動にボランティアの協力は欠かせない。学校も社会活動を推奨している。

ポートランドは全米で人口当たり最もNPOの多い都市。支持や寄付を得るのも「激戦区」。意味のある面白さを持続できなければそこまで。それでも資金も地位もない若者の活動を地域が支援する気風があるのがポートランド。結局、コミュニティのための活動は一時的に盛り上げるようなものではなく、コミュニティに育てられるという循環が生まれてこそ成り立つのだと思う。
(文・写真:百木 俊乃 ポートランドの暮らしブログ365Portland.com 編集人。コピーライター、クリエイティブ・プロデューサー。日本とポートランドをつなぐプロジェクトの企画プロデュースを行っている)

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