カテゴリ: 大人の嗜みガイド

前回のまとめ

前回の記事では、万年筆を明日から始めたいあなたにおすすめの万年筆、手入れの仕方、知られざる高級万年筆の世界について、日本の万年筆界のレジェンド、マルイ商店の白井英明氏にお話を伺った。

前回の記事はこちら

そんな前回の最後にふと気になった驚異的なディスカウント、疑問に思って尋ねると、そこには日本の万年筆のルーツ、マルイ商店のルーツが見えてきたのであった。

マルイ商店の歴史は戦後日本の万年筆界の歴史でもある

マルイ商店ができたのは戦後すぐのことだったという。

「今のアメ横にね、新橋に続くようにしてヤミ市ができたのよ。」

たしかにアメ横がかつてヤミ市だったことはよく知られた事実だ。

「そんなヤミ市で、親父が戦後すぐに店を開いてね、進駐軍の兵隊さんのものを横流ししたわけ。アメ横ってのはそういうふうに米軍がお小遣い稼ぎをするところでね、その中に万年筆とかいろいろあったのよ。」

最初はマルイ商店も、そうした横流し品をいろいろ扱っていたという。

「もともとはね、万年筆も扱っていたんだけど、ジッポライターとかの喫煙具がメインだったかな。万年筆もライターも、ネクタイとかバッグのブランドものとかね、いろいろ扱っていたなあ。」

戦後直後は、そうしたお店がマルイ商店以外にもたくさんあったのだという。

「当時はねえ、何十と万年筆を売っているお店があったんだよね。戦後日本の万年筆はアメ横から始まったってわけ。」

だが今のアメ横では万年筆をうっているお店はほとんどない。その理由にこそ、マルイ商店が大がかりなディスカウントを展開できるわけがある。

「戦後アメ横で万年筆をやっていたようなところが、いま海外の万年筆の代理店をやっているようなところなんだよ。日本中の万年筆代理店のほとんどはアメ横にルーツがある。大昔から付き合いがあるから、ほとんど卸値で売ってもらえるってこと。」

万年筆の日本での歩みは、そのままマルイ商店の歩みでもあったのだ。

白井英明氏自身は、どのようにして店を引き継ぐことになったのだろうか。

「子供のころから商人の息子だったから、漠然と店を継ぐことは考えていたね。高校の時から手伝ったりして。それで早稲田に入って、卒論を書いていたときに、取引先の問屋に「ヨーロッパいかないか」なんていわれてついていって、のんきに遊んでたら留年しちゃってね。」

ずいぶんと自由な大学時代を過ごしていたようだ。

「当時は学生運動が激しかったからさ、門のところにバリケードかなんかがあって入れないわけ。勉強どころじゃないようね。」

「それで大学五年生の時に親父の店を継ぐって決めたわけ。」

最近の万年筆事情

「やっぱりみんな字を書かなくなっちゃったからねえ。」

最近の万年筆事情をお伺いすると、白井氏は開口一番そう答えた。

「昔は万年筆以外の筆記具がなかったからね、万年筆を使うしかなかった。でもいまはいろんなものがあるから、実用品としての価値は薄れてきているかな。趣味で万年筆を集められる方は多いかな。特にお医者さんとか弁護士とか、忙しくてあんまり趣味に時間を割けないって方が万年筆をはじめるケースはおおいね。」

一方で趣味としての万年筆もはじめやすくなっている。

「戦前戦後のあたりなんかじゃ、万年筆なんて超高級品だった。今のお金に直したらだいたい20万から30万くらい。それが今じゃその十分の一以下の値段で買える。若い人で万年筆を持つ人も増えているよね。」

たしかに最近ではラミーというドイツの万年筆のサファリというモデルが、鮮やかでポップなカラバリ、デザインで人気だ。

だが危惧すべき事柄もある。

万年筆の歴史とか、性能とかをまともに説明できる人が減ってきてるんだよねえ。デパートの万年筆売り場の人なんてほとんどわからないよ。マルイ商店さんはそういうのがきっちりわかるから、ってんでうちにきてくれるお客さんもいるくらいだからね。」

その言葉には、長年アメ横で万年筆を見続けてきた男の自負が見え隠れする。

万年筆の日本での歴史とは一体どんなものなんだろうか?

そう聞くと白井氏はこのようにいう。

「昔ながらの伝統を守り続けている万年筆もね、実はその技術的発展だとか変化だとか、流行だとかによって歴史があるんだよ。」

「最初はアメリカの万年筆が出てきてね、次にドイツのものが、そしてイタリアのものが出てきたって具合にね。おもしろいのが国によって全然違う万年筆が作られる、ってところだな。」

次回の記事、万年筆特集第三弾では、引き続きマルイ商店への取材をもとに「万年筆に現れる国の特色、そして万年筆の歴史」について書いた記事はこちら。

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編集部 三宅隆平

脳髄を置いてきぼりにして走る

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