万年筆特集③ -万年筆にはお国柄があらわれる? 万年筆の国別特徴と流行の関係-

マルイ商店への完全取材記事第三弾、今回は「お国柄に現れる万年筆の違い、そしてそこに見る万年筆流行の歴史」だ。

前回、前々回のまとめ
前々回は万年筆の始め方を、前回は日本の万年筆とマルイ商店の関係を、白井英明氏に伺った。

万年筆特集① -明日から万年筆を始めたいあなたへ 万年筆入門編ー

2017.01.19

万年筆特集② -マルイ商店の歴史と日本の万年筆事情ー

2017.01.19

そして記念すべき最終回では万年筆の時代ごとの流行の移ろいと、国別万年筆の違いをお届けする。

アメリカの全盛期は、アメリカの万年筆の全盛期

そもそも今のような万年筆ってのはアメリカでうまれたものなんだよ、と白井氏はいう。

「ウォーターマンってアメリカ人が作ったのが最初だよ。今もウォーターマンって万年筆があるでしょ?」

「それが19世紀の終わりごろでね、そこからはもう、アメリカの万年筆の独壇場だね。パーカーにシェイファー、ウォーターマン……。日本でも戦後しばらくの間はアメリカのものしか入ってこなかったから、万年筆といえばアメリカってな具合だったよ。」

そんなアメリカ万年筆の黄金期を象徴するのがこちらのパーカー75だ。

アメリカ万年筆全盛期を象徴する一本。モダニズムの香りがただよう意匠。

「このパーカー75は一世を風靡したね。いまではもう売っていなくて、パーカーソネット・シズレって商品に受け継がれている。」

「アメリカの万年筆にはアメリカらしさが詰まってるよ。なんといっても合理的。カートリッジ式の万年筆を生み出したのもアメリカだしね。」

丁度アメリカ車にアメリカらしさがあふれているように、アメリカの万年筆にもアメリカらしさがあふれている。
武骨で素直で、自信にみちたそのデザインは、どこかゼネラルモーターズの50年代の車と親近性をもっている。
「でもね、今ではアメリカは振るわないね。」そう語る白井氏。
パーカーやウォーターマン等、全盛期を支えたブランドは皆、拠点を海外に移してしまったのだという。
「パーカーなんか今じゃニューウェルってとこのの傘下だからね……」

ドイツ万年筆 -アメリカにはない、欧州的優美さー

前述したように、戦前から戦後しばらくの間はアメリカ万年筆が覇権を握っていた。それが変化したのは60年代の終わりごろ。
ペリカンやモンブランといった、今でも非常に人気のある万年筆ブランドが、売り出しを始めたのである。
それはまず第一にはイメージ戦略の成功であった。ちょうど現在僕らがドイツ車にたいして高級感を持っているのと同じだ。
そして第二に、より日本人によりそったモデル、ローカライズで、「書きやすい」との評判を獲得したのも後押しした。



第一回の記事ではこのペリカン・スーヴェレーンレーンの色違いをご紹介した。

そんなドイツ万年筆の魅力が詰まっているのは、やはりペリカン スーヴェレーン。

ヨーロッパ的な優美さと質実剛健の精神が同居している様は、さすがドイツといったところ。

「ドイツ車と一緒で壊れない、安定性があるのも特徴。さすがドイツと思わせる丈夫さ。」
と白井氏は言う。

それにしても万年筆には本当にお国柄があらわれる。
アメリカの万年筆は自らの普遍性に絶対的な自信を持って、他の文化をその色に染め上げようとするアメリカ文化の反映だ。
ドイツのそれは、ドイツらしい堅実な物作りが、長い歴史の中で培われた柔和な優美性と相まって僕らを惹きつける。

かようにアメリカとドイツの万年筆がしのぎを削る一方で、イタリアでは、イタリアらしいマイペースな万年筆文化が、独自の進化を遂げ、花開いていた。

個性的、気まぐれで軽やかなイタリアの万年筆

「アメリカ、ドイツときて今はイタリアの万年筆が爆発的に支持されているよ。」
と白井氏は言う。

イタリアの万年筆の人気は、その美しさ、鮮やかでセンスにあふれた色使いによるものなのだという。

鮮やかなオレンジを黒が引き締める。キャップの部分にイタリアらしいマスキュリンな優美さを感じる。

たとえばこちらはデルタというメーカーのドルチェビータというモデル。「甘い命」という意味をもつこちらの万年筆。
これまで紹介してきたアメリカ、ドイツの万年筆とは全く違う美しさを持っているのがわかるはずだ。

アメリカ、ドイツの万年筆デザインが合理性、直線的なモダン精神のあらわれであるのに対し、イタリアのそれは傑出した芸術性、女性的な曲線美に支えられている。

万年筆をながめているだけで、イタリアの太陽、深い陰影、陽気に笑うイタリア人と、重厚な歴史に支えられた貴族趣味が、網膜に浮かび上がってくるような気はしないだろうか?

それはこのヴィスコンティというメーカーの万年筆にもあらわれている。

ヴィスコンティといえば、「山猫」や「ベニスに死す」等の作品を残した映画監督としても知られている。

「この万年筆はね、ヴィスコンティのヴァン・ゴッホシリーズっていって、ゴッホの絵画をモチーフにしたものになっているんだよ。たとえばこれなんかはゴッホのひまわりをモチーフにしている。」

もともとこのヴィスコンティというブランドは万年筆マニアの蒐集家が、趣味の延長線上に始めたブランドだったらしい。

「この創業者ってのがすごくてね、なんとお城に住んでいるというほどの金持ちで。」

なるほど、貴族趣味的芸術性があふれているわけだ。いつもの地味なスーツの胸ポケットにこの華やかな万年筆を挟むのを想像するだけでわくわくしてくる。

「この独特のマーブル模様があるでしょ、これはねえ、一本一本全く違うんだよ。なんでかっていうと、このヴィスコンティの万年筆が、一本一本職人の手工業で作られているから。」

そう、こうした職人の手工業に支えられているのもイタリアの万年筆の大きな特徴だ。

そしてもう一つ、イタリアらしい魅力がある。

「作りがね、ちょっと適当なものがあったりするんだよね。イタリア車と一緒で。イタリア車が調子悪くなっても、それが好きな人は文句言わないでしょ。それと同じなんだ。みんなそれを愛している。」

時にいい加減な部分があっても、だからこその気まぐれさ、遊びの多さが魅力となって迫ってくるのだろう。

言語化不可能な次元で僕らを惹きつける万年筆たち

万年筆は、なぜこう魅力的なのだろう?

白井氏は、好きだけど説明できない、としばらく考えた末にそう言った。

そうだ、好きだけど説明できない、それでもやはり好きなのだ。
美しいから? おしゃれだから? ステータスになるから?
どんな理由も万年筆の魅力を伝えるには不十分。

だが一つだけ、万年筆の素晴らしさを伝える方法がある。
実際に万年筆を持ってもらって、書いてもらうこと。それだけ。

願わくばこの記事を読んだあなたが、万年筆を手に取ってくれますように。

最後に、今回取材に協力してくださったマルイ商店の白井英明氏に謝辞をささげて、記事の締めくくりとする。
ありがとうございました。

マルイ商店のリンクはこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です