ハンドクラフトで最高のGinを造る、 ポートランダーの「ホームタウン・プライド」

クラフトビールで知られるポートランドは、ワインやハードサイダーなど他の飲み物の製造も盛んだ。最近、急速に盛り上がっているのがウィスキーなどのスピリッツ。マイクロ・ディスティラリー(蒸留所)がどんどん増えている。その中でも存在感を放つハンドクラフトのGin(ジン)「Aria」を造るポートランダーを紹介したい。

人々の応援がポートランドのスパイラル文化を生んだ。

ポートランドのスピリッツの中でも一躍名前が知られつつあるAriaは、30代の男性二人が始めた小さなGinのメーカー。スタートして3年目、ようやく自分たちの蒸留所を開くことになり、いま内装をDIYしているところだ。元アンティークショップの建物は隣のカフェで食事をしている時に貸店舗の貼紙を見つけて即決した物件。「変な壁紙とカーペットが貼ってあって、剥がすのにひと苦労だった」そうで、何度も延期した末、1年かかってようやく9月末オープンの見通しだという。

卒業後20年、遂にポートランドで夢を叶える!

ライアンとエリック(共に38歳)は高校時代の友人同士。お酒が飲める歳になってからは飲み友達として付き合いが続き、それが高じてライアンは17年間バーテンダーとして働いた。二人は様々な酒を飲み交わしながら、漠然といつか自分たちのスピリッツを造りたいという夢を抱き、20年経って遂にそれを実現した。ブランド名のAriaは、エリックがミュージシャンだったことから付けられたという。「Ariaって短くて覚えやすいし、アルファベット順だと最初に出て来るしね(笑)」

実際に二人が酒造りに入った機会はほとんど偶然だった。最初はロシア系の友人に誘われてウォッカを造り始めたが、興味は少しずつGinに傾いていく。そして仕事の合間にあらゆるタイプのGinを分析し研究を重ねるうちに、二人の気持ちは固まった。自分たちの手でオリジナルな最高に美味いGinを造りたい! しかし現実はそう容易ではない。試しては失敗し、また造っては失敗、何百回とその繰り返しだった。やみくもに造るのではなく、材料の調達も含め毎回正確なレシピでトライしたのだが、これという味に行き着くまで数年かかっている。

ジュニパー、そしてポートランドの水が基本。

Ginの材料の基本はジュニパー(ヒノキ科の樹木)だ。オレゴン州の内陸部には乾いた大地に濃い緑のジュニパーウッドが群生し、一帯にはウィルダネスらしい清々しい香りが充ちている。その木の小さな実ジュニパーベリーがGinの独特な香りの元でもあり、Ginという名前の由来でもある。とは言え、今Ariaではデリケートでニュアンスの出せるクロアチア産を使っている。オレゴンのジュニパーはちょっと香りが強過ぎるらしい。

奥深い香りとテイストを生み出す組み合わせを求めて、彼らは10種類くらいのボタニカル(草根木皮)を世界各地から取り寄せていて、その6割はオーガニックを使用している。さらに酒造りに大切なのは水だが、他のスピリッツやクラフトビールも含め、ポートランドの飲み物のクオリティの高さには良質な水にも理由がある。Ariaが使うのはBull Run Watershed、Mt. Hoodの雪解けの水だ。清涼で柔らかな水質はAriaのキャラクターにつながる。初めて飲んだ時、するりと口当たりよく感じたのはこの水のせいかも知れない。

ホームタウンのヘルプの助けで実現。

蒸留所を持っていない二人がどうやってAriaを造ってきのか。そこには同業の友人の協力がある。やはりハンドクラフトでウィスキー造りをしているポートランドのBull Run Distilleryだ。彼らの蒸留所でAriaは初めの生産体制を持つことが出来た。「一杯飲みながら、Win-Winになる関係を築いていった」という何とも羨ましい話だが、筆者がAriaを知ったのもこのBull Runでのテイスティングだった。

ポートランドらしいやり方で独自スタイルを確立。

Ginはいろいろな進化を遂げてきた飲み物。Ariaはたくさん賞を獲っているが、他の製法にもそれぞれの良さがあって、どれがベストというのではないという。ただ、トラディショナルな製法には厳密さが必要であり、材料の比率などバランスがすごく大切。レシピのほんのちょっとの違いも味に出る。彼らのGinは多彩な現代的の嗜好性にマッチした、奥行きのある洗練された味わいだ。
Ariaはロンドン・スタイルを踏襲しつつ、独自のテイストをつくり出してきた。「製法はトラディショナルでも、僕らはポートランドで育ち、ここがホームタウン。あくまでもポートランドの一部でありたい」一つずつハンズ・オンで積み重ねてきたやり方も、ポートランドらしいと自負している。だからAriaは「Portland Dry Gin」と名乗っている。

ローカルの良さを理解し、応援してくれるポートランダー。

ポートランドでは20年くらい前からFarm to Tableの流れが高まってきて、レストランにも地産地消の考え方の所が多い。「それでローカルの作り手達がさらに頑張るという、いいスパイラルが生まれてきたんだ。最近アメリカでも小さい街にそういう所が増えて来たけど、ポートランドはそのパイオニアだと思う」と彼らはポートランドの食文化を讃える。ブルワリーもワイナリーも、それぞれに素晴らしい成長を遂げてきた。それに続きたいと目を輝かせる。

あらためて、ポートランドをどう思うかと二人に聞いてみた。「ポートランドの人達はビッグチェーンには興味がなくて、ちょっとした物でもローカルを指名する気持ちがある。みんなこのカルチャーがいいと思ってるし、理解して応援してくれるんだ。それがポートランドの本当に好きなところ」とライアン。Ariaも飲んだ人が口コミで拡げてくれたことが幸せだという。「ここにはホームタウン・プライドがすごくあると思う」とエリック。
ずっとポートランドで、今のやり方でリーズナブルな美味しいGinを造り続けたいと語る二人だけれど、いつか日本の人達にも飲んで貰う機会があればうれしいと思っている。

(文・写真:百木 俊乃 ポートランドの暮らしブログ365Portland.com編集人。コピーライター、クリエイティブ・プロデューサー。日本とポートランドをつなぐプロジェクトの企画プロデュースを行っている)

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