ポートランドらしさの象徴になるか、 アーバンファームの時代。

アメリカの都市農業をリードする街の一つであり「アーバン・アグリのヘイヴン」と言われる ポートランド。ここにはたくさんのアーバンファームがある。今回は日本でも名前を聞くようになったSide Yard Farm & Kitchenと、そのオーナーでシェフでもあるステイシー・ギヴンズを通して、ポートランドらしさを体現するローカリティについて考えてみたい。

ポートランドのローカル文化を体現する、地産地消のあり方。

ポートランド住宅街の中でも牧歌的な雰囲気の漂うネイバーフッドCully。ここで7年前にスタートしたサイド・ヤード・ファーム & キッチンは、今年の春3つ目の大きな農園をオープンした。育てた作物はポートランドで指折りの15のレストランに卸すかたわら、オーナーのステイシー自身は料理人として活動している。単なるケータリングだけでなく、どこへでも出掛けて料理を振舞うことから、自らを「ノマディック(遊牧的なの意)シェフ」と称する。結婚式やパーティなどはもちろん、自然の中やキャンプ場のような所へも出掛けて、その場で調理するのだ。


ステイシー・ギヴンズ、出張時にはキッチンになるトレイラーの前で。これに材料を積んでどこへでも行く。

アーバンファームとは文字通り都市やその近郊にある農園のこと。消費する場の近くで生産することで地産地消が容易になり、作り手と買い手がダイレクトに接するので安心感も生まれる。ポートランドにファーマーズマーケットや「Farm to Table(農場から食卓まで食材の流れをコントロールすること)」を推進するレストランが多いのも、ここにはアーバンファームが多く、採れたての食材が手に入りやすいことがある。加えてポートランド市自体が積極的にアーバン・アグリを支援しているから、住宅地でもファームを経営しやすい背景があるのだ。

ポートランドのダウンタウンから20分程だが、カントリーの趣きのあるネイバーフッド。

「ローカル・ヒーロー」は、ポートランダーの勲章かも知れない。

ステイシー・ギヴンズは15歳の時にカリフォルニアで料理人としてのキャリアをスタート、ポートランドに惹かれて引越してきてからは暫くレストランで働いた。その店が作った屋上菜園を任されたことで「Seeds to Table(食材となる農作物を種から育て、調理して食べる所までの流れ)」のコンセプトを自分の中に築いていったという。いよいよ自分でファームを開こうと決めてからは自らネイバーフッドを歩きて回って土地を見つけた。立ち上げ時には資金を補うファンド・レイジングを利用し、オープンに漕ぎつけてからも掛け持ちの仕事をこなしながら、サポーター限定の食事会を開くことで支援を還元していった。

仲間と一緒にファームを造り上げていったプロセスが記録されている。

農園と料理人の両立は大変な労働だが、ステイシーは全身からこの仕事が好きでたまらないというエネルギーが溢れている人だ。実際、彼女はあるインタビューに「これはパッションなの。「仕事」じゃないのよ」と答えている。「ローカル」という概念が最近は曖昧になっているという疑問を持っており、使う素材は3キロ圏内と徹底した地元食材へのこだわりを貫いている。もちろん全てオーガニックだ。しかし、それは簡単なことではない。だから懸命に働き、コミュニティの人々とたくさん話し、地域との結びつきを殊のほか大切にしている。そうした努力もあって、昨年は「Edible Portland」誌のローカル・ヒーロー賞に選ばれている。



ファームハウスの中のキッチン。使い込まれた鍋類がハンギングされていた。

サイドヤードファームのネイバーフッドにはHomesteadと呼ばれる自家農園を持っている家も多く、互いの収穫物を交換し合ったり行き来する習慣がある。そうした土地柄なので、ファームで催す映画会などのイベントには近所の人達や仲間もやって来るし、月に1、2度はテーマを決めた食事会も開く。たとえば今月の「Seeds to Table」ブランチはファーム内を案内して食材への理解を深め、実際にそれを使ったブランチを楽しむというものだった。食事会はいつもメニューに合う飲み物のペアリングを設定していて、今回はベルギースタイルのクラフトビールCommons Brewery。ステイシーの友人でもあるファウンダーのジョシュも参加した。



コモンズ・ブルワリーのファウンダー、ジョシュと。

日本のローカル・ヒーローにも注目したい。

友人手製の大きなテーブルでスタッフと一緒にブランチのセッティング。

サマースクワッシュなどのローストをベイジルのソースで。

ステイシーは昨年に続き、今年も日本でのイベントに招聘されている。地の物に興味があり、日本の市場で食材を見つけるのを楽しみにしている。きっと素敵なイベントになるだろう。ただ、ふと思う。日本でも彼女のように「Seeds to Table」を実現したいと努力している人もいるはず。そういう人達がもっと脚光を浴びてほしい。これ迄は地域を飛び越して都会や外の世界を目指すコマーシャルなビジネスの仕方が当り前だったけれど、持続性を大切にするのであれば作り手と地元コミュニティの結び付きは欠かせない。ポートランドが進めているCSA(Community-supported agriculture:コミュニティが支援する農業)は今や世界的な動きになっており、時代の要請と言えるのではないだろうか。

キッチンでスタッフと。日本製の三徳包丁を使っていた。

まずローカル、つまり顔の見える人々に愛されること。そこに楽しさといきいきした循環が生まれれば、サイドヤードファームのように他の地域の人々も注目するという流れが自然に出てくると思う。そういう形であってこそ「Seeds to Table」という仕事の本質が生きる気がするのだ。前に紹介したクラフトビールやGinもそうだったけれど、ポートランドらしさというのはローカルを大切にすることに始まり、そこに帰結する。日本でも、その地域ならではのローカル・ヒーローがたくさん出てくることを期待したい。

(文・写真:百木 俊乃 ポートランドの暮らしブログ365Portland.com編集人。コピーライター、クリエイティブ・プロデューサー。日本とポートランドをつなぐプロジェクトの企画プロデュースを行っている)

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