カテゴリ: 大人の嗜みガイド

豆を焙煎し、味を創り出す職人観。

コーヒーロースターという職人

長年積み重ねてきた抽出の技術を駆使し、渾身の一杯を創り上げる職人がいる。一方で、生豆を選び、その特長を引き出すことでコーヒーの方向性を定める職人が存在する。
それこそがコーヒーロースター。彼らの存在はコーヒーを語るにあたって絶対に無視できない。

取材に協力してもらった雨の日の珈琲の店主、久保田氏はコーヒーに対して真摯に向き合い、熱風式の焙煎機を用いて自らの味を創り出そうと奮闘しているArtisan(職人)。

コーヒーの味わいの中で、ひときわ「甘み」と「香り」に力点を置いた焙煎をするという視点から、コーヒーについての考えを深めてみようではないか。

名店の味わいから見出した日本人にとってのコーヒー

「雨の日の珈琲」が目指すコーヒー豆は、「日本人が好むコーヒーの味わい」だと久保田氏は語る。
実際に、「雨の日の珈琲」に来店する方の7割以上が「酸っぱくないコーヒーを」と注文するようだ。
そんな久保田氏の目指しているそのコーヒー像には、銀座の名店「カフェ・ド・ランブル」へのリスペクトがある。
濃いコーヒーにもかかわらず、濁りのないクリアな琥珀色(L'ANBLE)。
その色に裏打ちされるように、そのコーヒーには透明感があり、なおかつ「甘い」。日本のコーヒー抽出の理論を組み立てた店の一つである名店の味わいや作法は、久保田氏のコーヒー作りの骨子となった。

ロースターとして出来ること/風合いを楽しむこと

ロースターにとっては味だけではなく、誰でも美味しいコーヒーを淹れられるということも、重要な要素となる。
久保田氏は家で淹れる基本のコーヒー像として、ペーパードリップで淹れるということに重点を置きながらも、ネルやサイフォン、フレンチプレスで淹れる場合にも味が成り立つように心掛けているそうだ。
また、豆の寿命を延ばすことも考慮しているという。通常2週間ほどでコーヒーの香りや味は落ちてしまうものもあるが、「雨の日の珈琲」の焙煎方法でなら豆の状態で焙煎から40日後までその変化を楽しめるらしい。
それにいち早く気付いたのは、雨の日の珈琲の常連さん。
雨の日の珈琲で購入した豆をわざわざ家で寝かせたあと、店まで持ってきてくれる方がいたのだとか。一緒に店内でその豆のコーヒーを飲むと、その風合いの変化が悪いものではないことに気づかされたそうだ。

「焙煎したての豆の煙たさが無くなり、味がマイルドになる。角が取れ、奥行きを感じるような面白い味になる豆があるんですよ。」
「いままでコーヒーの酸化は悪いことだとされて来ました。しかし、その酸化による変性が良い方向に働くこともあるようです。変わることは果たして本当に悪いことなのでしょうか。」


保存環境、豆のポテンシャル、焙煎方式(直火・熱風ほか)、それらがすべて整っているからこそ楽しむことが出来るのであろう。勿論全てのロースターの豆でこれが出来る訳ではない。

流行と、基礎とがある中で、在るがまま。

日本人が求める味

現在のコーヒー界の潮流は、サードウェーブ系コーヒースタンドの味作り。スペシャルティグレードの豆を使った、浅煎りで酸味と香りが豊かな果実のようなコーヒーだ。
「雨の日の珈琲」が目指しているコーヒーは前述の通りこれらの流行から一線を画している。
深煎りで甘いコーヒーを作るという点では、以前ACCETORYで取り上げた喫茶店「DUN AROMA」と目指すコーヒーの味は共通する部分もある。日本の文化で育ってきたコーヒーの味は、流行と共存しながらも、一歩も味を譲らない矜持が見える。そこには、日本人の舌を長らく惹きつけてきたという裏打ちがある。

サードウェーブのコーヒーと日本人

「果たして、Acidity(酸味)」と浅煎りを中心とした味作りは、日本人の口に合うコーヒーなのでしょうか?」

久保田氏は、流行の型に嵌めてみただけのコーヒー作りに疑問符を投げかける。

「実際、私自身はどんな味でも好むので酸味を活かしたサードウェーブ系のコーヒーで、これは美味しいと思うこともあります。でも、SCAA(米国スペシャルティコーヒー協会)の評価基準に沿っているサードウェーブは、日本人の舌で評価しているわけではないんですよね。」

サードウェーブの概念はアメリカから持ち込まれたもの。日本という文化に馴染むというよりは、いまだスペシャルティコーヒーの定義や型に縛られている店が圧倒的に多い。徹底したマニュアルにより、均一なコーヒーの焙煎や抽出を目指しているかもしれないが、果たして自身の「舌」による判断で味を創っていこうという気概がどれだけあるのだろう。

サードウェーブのコーヒーの行方、雨の日の珈琲の行方

「恐らく今はまだ足並みがそろった状態でしょう。高品質なコーヒーを作ろうという意識が生まれて、その豆を評価する基準とコーヒーを焙煎、抽出する基準とが出来ただけです。」
「味作りの進化として、基礎固めの次に来る応用の段階に向かい、それぞれのロースターの個性の表現や差別化が始まるでしょう。」と。

味づくりの基本の型に嵌まってしまっていては窮屈である。
シナモンローストの焼き色も、華やかな果実のような香りも、コーヒーの絶対的な基準ではない。
無論、「雨の日の珈琲」における深煎りで甘い味わいのコーヒーも、数ある"方向性"の一つだ。
それをわきまえた上で久保田氏は、「深煎りで甘く香りが強い」コーヒーと言う個性を光らせつつ、同時に常に変化を求めていると言う。

「そういう(個性を尖らせつつ、変化があるような)店ほど、商売としては難しいですね。それで成功しているお店はランブルさんです。しっかりとした味の基礎があるからこそ、お客さんも離れていかないし、いつまでも続けることが出来ている。」

「スタンダードに丁寧な焙煎で高品質のものを出すお店と、ブームの盛り上がりによって人気を博すお店がある中で、ウチ(雨の日の珈琲)のように、いつも何か新たな方向性や味わいを目指して、変化していく店が在ってもいいのかなと感じています。」

浅煎りのように香り高く、深煎りの中でも際立った甘みを伴う。曰く深煎りサードウェーブと銘打つそのコーヒーは、久保田氏が作り上げた作品だ。
この特別なコーヒーは通常の焙煎よりかなりの手間がかかるため、ドリンクのみでの提供になってしまっているという。
芸術というほど大それたものではない。けれど来店してくれる方が喜んでくれるそれは立派な一つの作品。
豆を焙煎するという作業を超えて自らの味を創ろうとする姿勢に、職人という言葉だけでは収まりきらない作家性が窺える。
移ろう時流の中で、いつまでも自分だけのコーヒーを創り続けてもらいたい。

全ての珈琲好きよ、変化を楽しもう。

コーヒーの創り手たちは、このサードウェーブの時代を経て、なおも大きな変化を遂げていくであろう。
それぞれに目指す味を追究しながら、来るべき次の新しい波の影響を受けて。

「変わることは果たして本当に悪いことなのでしょうか。」
そう言った久保田氏の意見が思い出される。それは単に豆の味わいについてであったが、きっとコーヒー業界の大きな潮流においても当てはめることが出来るのだろう。
影響を受けること。変わること。それにより、良い味わいや新たなコーヒーの楽しみ方が見つかるということ。そうしてポジティブな変化というものが全て悪いものではないことが分かるはずだ。

今回取材のご協力を頂いた『雨の日の珈琲』公式サイトはこちら

自家焙煎豆売所 雨の日の珈琲:http://www.amenohi-coffee.jp

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編集部 岡田悠吾

ウイスキーが深まる季節がきました。

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