カテゴリ: ビール

今回から記事を書かせていただくことになりました川端ジェーンと申します。
普段は日本ビアジャーナリスト協会のサイトで原稿を書いたり、ビアジャーナリストアカデミーなどでベルギービールの講師をしたりしております。



ベルギーのブリュッセルからゲント方面に走ったところにヴァン・デン・ボッシュ醸造所がある。
1897年から醸造を開始し、現代の社長で営業担当のブルーノ氏は四代目。
弟のエマニュエル氏が醸造担当という家族経営のアットホームな醸造所だ。
パーテルリーヴェンヴィットシリーズやブファロシリーズなどを醸造している。
ベルギーでビールを作っている唯一の日本人、今井礼欧氏の主力商品である欧和の委託醸造をしていることでも有名。

ブルーノ社長が飲んでいるのはブファロ・グランクリュ。
ブファロ・ベルジャンスタウトをフランスのボルドーワイン(ポイヤック)樽で1年間熟成させたものでアルコール度数は9%もあり、赤ワインにも似た酸味があるうえ、カラメルのような甘い香りもある。
そもそも、ベルギーにはドイツのビール純粋令のような法律がないため、自由な発想でビールを作っている。
ベルギー国内で作られたものしか名乗ることのできないランビックという種類のビールはタンクではなく、屋根裏のようなところで空気中の酵母を取り込んで作られ、「馬の毛布」とも称される強烈な酸味が特徴的だ。
また、ベルジャン・ホワイトと呼ばれるスタイルではオレンジピールとコリアンダー(種)が入っているものがほとんどであり、バナナのような香りはあまりしない。
レッドビールと呼ばれるスタイルでは内側にコーティングのされていないオーク樽で半年から数年にもわたって熟成させる。
出来上がったビールはカラメルなどフレーバーがあるうえ、乳酸菌やオーク樽由来の酢酸菌などが複雑な酸味を形成し、「赤ワインのような」と評されることも多い。
他にもカテゴライズできないような個性的なスタイルが多く、醸造家にスタイルを尋ねても商品名がスタイル名と返されることもある。
今回は四代目のブルーノ・ヴァン・デン・ボッシュ氏が来日されたので九品仏にあるベルギービールバー「カフェ.メゾンドケー.」で話を聞いた。

(川端)
「日本にいらっしゃるのは2年ぶり2回目ですよね?
前回と比べて日本のビールを取り巻く環境に違いは感じました?」

(ブルーノ氏)
「 実は18歳の頃、1ヶ月日本に滞在したとこがあるから3回目なんだよね。半月を船橋、残りを千葉で過ごしたんだよ。 2年前に比べて、日本でのクラフトビールの盛り上がりにはとても驚いたよ。特に昨晩行ったスプリングバレー、あそこは凄いね。ビールに色々なフレーバーをつけられるんだよ。」

※スプリングバレーブルワリー東京には世界に1つ、ここにしかないとされるインヒューズドマシンがあり、既に完成しているビールにゴボウやホップなどのフレーバーをつけた実験的なビールが提供されている。それがかなり衝撃的だったよう。

(川端)
「 千葉にいらしたことがあったから日本人を抵抗なく受け入れることが出来たのね。それもあって今井礼欧さんのビールを作ることになった?」

(ブルーノ氏)
「 いやいや、単にその時は釜に余裕があったから貸してもいいかなぁ、って(笑)それにしても、彼はどちらかというと平均的な日本人からはかなり外れているよね。どっちかって言うとヨーロッパ人的な。初めは本当にびっくりしたし、醸造の仕方や考え方に対する違いがとても面白いね。欧和は好きだし、よく飲むビールの1つだよ。」

※欧和は日本の食卓、つまりしょうゆ味にペアリングすることを念頭にして作られている。専用グラスは美濃焼で作られている。今井氏は本人曰く「不得意」という英語でも引くことなく自分の要求を明確に表現できるし、伝わっていないと感じてもあきらめずに伝わるまでチャレンジする。そのため、一般的なヨーロッパ人が日本人に抱いているイメージからは少し遠い所に位置しているのかもしれない。

(川端)
「因みにご自身のビールの中で一番好きなビールは?」

(ブルーノ氏)
「ブファロ・ビター!」


※スタイルはスペシャル。これはどのベルジャンのスタイルにもカテゴライズできないときに使用されるので味わいは多岐にわたる。ブファロ・ビターは柑橘系の酸味もあるホップのきいた苦みの強いビール。アルコール度数は8%。正規輸入代理店「ベルギービールJapan」の通販サイトなどで購入可能。

(川端)
「それはブファロ・ビターが一番目指す味わいに近いから?」

(ブルーノ氏)
「いや、違うよ。」

(川端)
「では、どんな味わいが目指しているものなの?自分の中での最高傑作、つまりBest Brewってどんなイメージ?」

(ブルーノ氏)
「う〜ん、ちょっと難しいね。ベストブルーとなると人それぞれの理想像があるからね。僕に限って言えば、ってことでいい?それは度数が低いのに味わいが豊かなもの、かな。例えばパーテルリーヴェン・ヴィットはフルーティーだよね?だけど、それだけじゃなくてホッピーだったりスパイシーだったりするのっていいと思わない?」


※パーテルリーヴェン・ヴィットのスタイルはベルジャンホワイト。パーテルリーヴェンというのはキリスト教の聖者の名前でヴァン・デン・ボッシュ醸造所のメインシリーズ。一番有名なのはこの小麦を使ったタイプ。アルコール度数も4.5%と低く、軽くて爽やかな飲み口は多くの人に愛されている。このベルジャンホワイトと呼ばれるスタイルの特徴は小麦を使っていることはもちろんだが、オレンジピールとコリアンダーシードを使うことも外せない要件である。その味わいはヴァイツェンに比べるとエステル香と呼ばれるバナナのような香りは少ない。なお、ビール純粋令のないベルギーでは麦芽化されていない小麦を使ったものもある。

(川端)
「 確かに。そんなビールなら何杯でもいけちゃいそう。ところで、ビールを飲む上で大事にしていることってなに?」

(ブルーノ氏)
「 色々あるよ。提供される温度、専用グラス、ベルジャンスタイルの注ぎ方。これらを全て大切にしてベストな状態で提供できればそれは最高に美味しいビールになるんだよ。」


※ベルギーでは銘柄ごとにグラスの形が決まっている。専用のグラスがない場合にはビールがあっても提供しないことも。

(川端)
「そういえば、それぞれのグラスを決めたのは誰?どんな理由で?」

(ブルーノ氏)
「僕だよ。パーテルリーヴェン・ヴィットはキリスト教の聖者の伝説をモチーフにしているから聖杯型。ブファロはビアバーで背の高いグラスの方が目立つから、だよ。背の高いグラスに注がれていると遠くからでも見えるし、何を飲んでいるんだろうって興味を持ってもらえるからね。そして何より簡単に手に入る!」

(川端)
「今後はどんな味わいのビールを作っていくの?」

(ブルーノ氏)
「それは教えられないよ(笑)ただ、今は色々な銘柄があるから管理していくのが大変なんだ。そこが順調に回っていくようになったら新しい味わいにチャレンジしたいね。実は今、テストしていることがあるんだよ。ビールをいろんな木樽で熟成させてみてどんなふうに味わいが変化していくのかをみているんだ。」


※ブファロ・グランクリュは2013年から作り始めたのだが、2013年、2014年どちらのヴィンテージもポイヤックの樽で寝かせている。2015年のヴィンテージは9月発売とのこと。なお、ベルギーのビールにはポート樽やアイラ樽で熟成させたものなど多様な熟成方法があり、ほとんどの場合は元の樽のフレーバーがほんのりと感じられる。

(川端)
「現在37歳だけど将来的にはお子さんとビールを作りたい?」

(ブルーノ氏)
「 上の子は女の子で10歳だし、下の男の子もまだ8歳だからね。全く想像もつかないよ。醸造を担当している弟のところは生まれてまだ10ヶ月だからもっと考えられないだろうし(笑)」

話していくうちにどんどん笑顔が多くなっていき、それにつられて周りの緊張した雰囲気も柔らかくなっていく。パーテルリーヴェン・ヴィットの味わいのような優しさや明るさが彼のビールに反映されているように感じたひと時だった。

 次の記事へ 
川端ジェーン

ベルギービールのストーカーです

RANKING

最近人気の記事ランキング

RANKING

RECOMMEND POSTS

ACCETORY編集部おすすめの記事

THE BEST POSTS

過去に人気を集めた記事をピックアップ

THE BEST POSTS

NEW POSTS

最新の記事一覧

NEW POSTS

特集

ACCETORYおすすめの特集

特集一覧

TAGS

タグから記事をさがす

TAGS
TOP