Bar 霞町 嵐にて、JAMESON世界大会優勝カクテルを体験してきた。

JAMESONカクテルコンペ世界大会で優勝した新井氏に、お話を伺ってきた。 麻布の印象が変わる隠れ家バーで、 新井氏のバーテンダーとしての考え方に迫っていく。

東京は西麻布、日比谷線の広尾の駅から、外苑西通りを六本木や乃木坂の方へ向かっていくと首都高にぶつかる。
それより手前で、右にある路地を曲がると、傾斜にひっそりと佇むハイクラスな住宅街が軒を連ねている。
その一角に、個人邸宅の地下を改装したバー、「Bar 霞町 嵐」がある。

このバーこそ、JAMESONカクテルコンペで優勝した新井氏が在籍するバーだ。

Jamesonカクテルコンペ世界大会で優勝した新井和久氏は、どんなバーテンダーなのか。
前回の記事では分からなかった新井氏の、そのバーテンディングのスタイルや、素顔を切り取った。

JAMESON世界大会チャンピオンの新井氏

優勝カクテル「Take a break」のプレゼンを再現!

まずは一つ、こんな疑問を投げかけてみた。
そもそもカクテルコンペはどうして行うのだろう。
カクテルレシピと、写真だけでは、伝わらないものなのだろうか。

それに対し、新井氏はこう語る。
「なんでプレゼンテーションをするのかということですけれど、それはカクテル自身に説明が必要だからなんですね。カクテルって簡単に伝わらない。カクテルの素材と見た目だけでは理解が薄くなってしまう。プレゼンをしてより理解をしてもらうことで、味のレンジを広げることができるんです。調合動作の細かな動きを積み重ねることで、ひとつのストーリーを作っていくことが重要なんだと思います。」

言われてみれば確かにクラシックなカクテルでさえ、名の由来や作り方のコツなど、単純なレシピでは見えてこない深さがある。バーテンダーの思いが詰まった渾身の一杯であるコンペティションカクテルでは、その見えない部分がより重要になってくるわけだ。

そこで気になるのはどのようにして、新井氏の優勝カクテル「Take a break」はプレゼンされたかということである。日本大会では7分間の制限時間で行われたが、
なんと世界大会は3分と言う制限時間の中で執り行われたという。
半分以下となった制限時間の中で、新井氏は一体どのようにプレゼンを行ったのだろうか。

今回の取材では、幸運にも実際のプレゼンと同じスタイルで優勝カクテルを作っていただくことができた。
新井氏は、世界大会でのプレゼンを思い出しながらこう語る。
「時間が無い中で、伝えたいことが多い。その中で僕たちが取った作戦は、時間外から勝手に演出を始めちゃえというものでした。」
新井氏は、審査員にヒノキの桶を手渡し、ヒノキのミストで香りをつけた手ぬぐいを彼らの首にかけた。
「ヒノキの香りって日本人にとってリラックスできる香りなんですよね。僕の今回のカクテルのテーマはリラックスタイムだったので、バスタイムという観点から、リラックスを表現しました。ヒノキの桶の使い方を説明し、ヒノキのお風呂の映像を流すことで彼らに日本の文化を体感してもらいました。」

この新井氏の作戦が日本のリラックス・バスタイムを審査員に伝える「時短」に繋がる。


ヒノキ風呂の説明のため、自作のムービーをiPadにて流す新井氏

「次にほうじ茶の説明をしながら、緑茶を焙煎していきます。このカクテルは香りがミソになってくるので、実際に焙煎をすることで、ほうじ投稿茶の香りを体感してもらいます。」

焙烙(ほうろく)で焙煎する新井氏。香ばしいほうじ茶の香りがあたりに広がる。

「そして、このほうじ茶をジェムソンに漬け込んでいきます。これで大体3分くらい抽出するので、その間に他の材料を混ぜていきます。
世界大会に持っていったものは12時間インフュージョンさせました。日本人と味覚が違うこともそうですが、コンペなので一口目のインパクトで勝負したかったのもあって、インフュージョンに時間をかけました。」

お茶は抽出が早いため、普段は3分ほどでいいとのこと。

「次にヒノキのシロップを入れます。容器は日本酒を入れるためのものなんですけど、あえてシロップ入れに使いました。こういう小物にも徹底的にこだわっています。」
「ほうじ茶をジェムソンのインフュージョンに選んだのには2つ理由があって、アイルランドで飲まれているブラックティーに色味が似ていたので採用したという理由の他に、テーマのリラックスに合わせて考えた時に、緑茶よりほうじ茶のカフェイン量が少ないことで、よりリラックス効果が得られるというロジックも理由としてあるんです。」

「続いてラベンダーのビターズを入れます。昔のローマ人はお風呂にラベンダーを浮かべていたという説もあって、世界的にリラックス効果があるということが有名です。アイルランドだけに作っているわけでも、日本だけに作っているわけでもなく、世界の人に向けて作っている、という思いを込めてラベンダーのビターズを入れています。」

ヒノキのシロップは新井氏の特製。副材料にも技が光る。

「あとは攪拌した卵白とレモンジュース、ジェムソンを入れてシェイクしていきます。」



ウイスキーに卵白とレモンジュースを合わせるということから、クラシックカクテルで言うならば、クラブカクテルやウイスキーサワーに近い味わいとなることが想像できる。そこにボタニカルな風味が加わることで、未体験の香味体験に変わるのである。

「最後に枡を削り、香りを強く出します。この木を削るという行為が、ジェムソンのマスタークーパーへのリスペクトにもなっているんです。そして、この枡の中に先ほどのカクテルを入れて、まるでジェムソンがヒノキ風呂に入っているかのようなイメージを出して、完成となります。」


木を削り樽を作るクーパー(樽職人)へのリスペクトを込めたパフォーマンス。削ることでヒノキがより一層香り立つ。

カクテル「Take a break」の完成。

編集部も味見の機会をいただいた。拙筆ながら感想を述べると、
ヒノキの香りがガツンと口中を支配した後に、ラベンダーの香りとともにほうじ茶インフュージョンのジェムソンが追いかけてくる。
最後はビターズとほうじ茶の苦味、レモンの酸味が爽やかに続いていった。
それぞれに個性の強い材料を、卵白がふんわりと包み込み、飲んだ後に自然とホッと小さな溜め息が漏れるような、まさに「くつろぎ」のカクテルであった。

バーテンダーに大切な事は「準備」である。

初めての世界大会という晴れ舞台で、新井氏は緊張ですくまなかったのだろうか。
「コンペ出場が決まった時から時間を逆算して考えて、技術的な準備とメンタル的な準備をしっかりとやりました。メンタルが崩れると練習にも身が入らないですし、仕事をしながら準備をやらなくてはならないし。そこで今回の大会に向けて、メンタルを三つの段階に分けて考えていました。」
新井氏は自身のメンタルを以下の三つの段階に分けて調整した。

・大会出場が決まってからプレゼンを完成させるためのメンタル
・プレゼンが完成してから練習している際のメンタル
・全ての準備が終わった後、世界大会に行くまでのメンタル

「それぞれのパートごとにメンタルの状態を管理して、必要以上に焦らないようにしていました。」


メンタルだけではなく、パフォーマンスの準備にもかなりの気を遣っている。
「僕はコンペの台本をしっかりとつくり込みますね。どのパートに何秒使うか、すべて細分化させて、練習で制限時間まで落とし込んでいく。完成してからは反復練習なので、休みの日にジェムソンを注ぐ、みたいな細かい作業を延々時間を計りながらやり続けてました。僕は練習によってきちんと落とし込まないと落ち着かないんです。その代わり、大会当日は何の不安もなく大会に臨むことができるので。」

サラリと言ってのけたその言葉の裏には、多くの苦労と努力の影があることは想像に難く無い。
バーテンダーの仕事の大部分は「接客」よりも「仕込みをどれだけやるか」という見えない部分にあるという話を耳にしたことがある。カクテルコンペにおいても、バーテンダーはかような努力をしているのだ。

支えてくれた人々、交流のあった人々。

「同伴してくれた久保さん(日本大会優勝者)や齋藤恵太くん(前回の世界大会出場者)をはじめ、各国の出場者とも仲良く楽しむことができて、いろいろな経験をさせていただきました。特に久保さんと恵太くんには、アイルランドで常に支えてもらっていましたし、二人のバーテンディングのスタイルを教えていただいたので、すごく贅沢な経験になりました。それに他の出場選手たちとも、すごく仲良く盛り上がって。初めてなのにすごく楽しめたなって思いました。」
大会というイメージだと、ピリピリと緊張した空気を想像してしまうが、決してそんな雰囲気ではなかったと新井氏は語る。
その理由としては、このジェムソンの大会が他のコンペティションと比べてラフな空気であったからと言うことも挙げられるだろうが、世界という場でも状況を楽しもうと思える新井氏の気風もあるのだろう。

優勝のもう一つの秘訣。

新井氏の優勝の秘訣、それは上記のようなカクテルに対するひたむきさもさることながら、
普段の中にもその秘密が隠れているように思う。
その理由は、新井氏の接客はあったかい、ということだ。取材を通して、それをひしと感じた。
「よく、話してる前に手を動かせよ!ってお客さんに突っ込まれるんです(笑)
それくらいお客さんとの距離感を大切にしています。もちろん飲み物はきっちり誠心誠意作りますけど、何よりもお客さんに楽しんでもらいたいので。」

「仲良くなると色んな話ができるんですよね。その人の人生のターニングポイントにも話ができる。ある意味その人の人生に寄り添いながら仕事ができるんですよ。」


「お客さんの中には社長さんも多いんですけど、そういう方々に刺激を貰う一方で、自分たちも常に挑戦する姿勢を忘れないようにしてるんですよね。他では飲めないようなカクテルを作る賛否両論シリーズ(例えばカレーのカクテル)というカクテルを月一で作ったり、色々なカクテルコンペに出場し続けることで、お客さんに対して逆に刺激を与えようと考えているんです。」
実際に新井氏の努力の様を見て、勇気づけられる客も少なくないという。Bar 霞町 嵐 では、客の姿勢を見てバーテンダーが努力をし、バーテンダーの姿勢を見、客が努力をするという相乗効果が生まれているのだろう。
客と店がそのような信頼関係を築いているからこそ、互いに対等な関係で、尊重しあえるのではないか。
「よく飲食店ではお客様は神様です、ってよく言うじゃないですか。僕はそうは思わないんですよね。神様だったら泣かないし、怒らない。お客さんは人間なんだから、色んな状況があって当たり前なんです。人間として扱ってあげるのが一番なんじゃないでしょうか。」

ホテルバーでの勤務経験もある新井氏は、客に最大限寄り添うような接客のスタイルも知っている。そこでの経験を鑑みて、本音でしっかりぶつかり合って、笑いあう、今のスタイルを確立したのである。
人の心を動かそうとするその姿勢こそが、異国の地のカクテルコンペで審査員を納得させることができた、もう一つの優勝の秘訣だったのではないだろうか。

恥ずかしながら、麻布のバーには少しばかりの偏見があった。
あえて敷居を高くしない、飾らないバーが存在することに正直びっくりした。
初めて新井氏にお会いして、筆者の麻布の印象が変わった。
ワイワイガヤガヤとしたクラブスタイルでもなく、敷居の高すぎるオーセンティックなバーとも違う、アットホームな隠れ家もあるのだと。
都会のオアシスはきっとこういう場所を指すのだろう。
ラグジュアリーな空間ではなく、
何となしに気がほぐれて、ゆったりできる空間。
そして心を通わせることのできるバーテンダーのような存在がいてくれる場所なのではないだろうか。

ジェムソンカクテルコンペのこれから。新井氏のこれから。

「自分が世界大会で優勝したことで、ジェムソンのコンペが日本の(バーテンダーの)中での注目も大きくなりますし、それによって参加者が増えて大会の質自体も上がってくると思います。
伝統を重んじるということも大切ですけれど、その中で、出場者が思いっきり楽しめる、ジェムソンのコンペのようなスタイルがどんどん広まっていくといいですよね。」

やはり世界大会で優勝ともなると、色々な声がかかるのだろうか。
そんなことを考えながら、これからのことについて聞くと……、
「ノーコメントで! でも乞うご期待ということで、どうかジェムソンと僕をよろしくお願いいいたします!」
という、気になるコメントを頂いた。
ブランドのコンペティションで優勝すると、それから一年はブランドの広報活動に精力的に参加することになり、他のコンペには出られなくなる。
新井氏の場合は、これから1年間JAMESONを広める広告塔としての役割が待っている。
優勝してからが本番ということで、これからの新井氏の活躍に今後も目が離せない。

紙幅の都合で、書ききれなかった世界大会の話は、ぜひともBar 霞町 嵐に足を運んで、気さくな世界チャンピオンに直接話を伺ってもらいたい。

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