カテゴリ: ビール

数年前から感度の高い人の間で知られるようになり、昨年本格的に浸透したクラフトビールという概念。
今回は大手ビールメーカー・キリンビールの手掛けるブリューパブ「スプリングバレーブルワリー東京」のヘッドブリュワー福井森夫氏にお話を伺ってきた。

ベルギービールが好きだった学生時代。

2005年にキリンビールに入社した福井氏。
ベルギービールが好きで、大学生時代から飲み歩いていたという。
そんな福井氏が大手ビールの雄キリンビールに彼が入社したのはなぜなのだろう?

「ビールメーカーの中で一番技術力があり、新しい飲み物がつくれそう。そう思ったからです。歴史もそうだし、ビール作りに対する姿勢もそうだし、なによりも技術力が非常に高い。」

例えば「のどごし<生>」がそうです、という福井氏。
たしかに麦を使わず大豆を使って(のどごし生は大豆を原料にしている。)あそこまでビールに近いものが作れるなんて、驚異的だ。

「ここ(キリンビール)で面白いことができないかなあ、とおもって入社したんです。入ってみたらやっぱり実力がすごかったし、新しいモノに挑戦する姿勢が肌に合っていました。」

クラフトビールもそうだ。
大手の中で、最初にクラフトビールに本格的に取り組んだのはキリンビールだ。
(それは「GRAND KIRIN」という形で世に出ることになる。)

ビールはつまらなくない!

「これはキリンビール全体の想いでもあるのですが、最近ビールがつまらなくなってしまっている、という危機感がある。ビールが工業製品のようにみなされてしまっている。それは一側面としてはそうなんですが、本来は違うんだ、という思いがあります。」

「ビールにもいろいろあって、それぞれ個性豊かな人によって「創られる」ものなのだ、ということを伝えたかった。」

そんな折にスプリングバレーブルワリーの立ち上げに参加することになった福井氏。
それまで大規模な工場で大規模にビールを作っていたところから、真逆の環境に放り込まれ、苦労も多かったという。

「お客様に「ビール作りのすべて」を見せるというのをコンセプトにしていましたから、施設の配置にも非常に苦労しました。」

スプリングバレーブルワリー東京は、店内から実際の醸造工程をみられるように、ガラス張りで醸造施設が配置されているのが特徴だ。

キリンビールがやっているブルーパブ、ではなく「スプリングバレーブルワリー」という一つのものとしてみてほしかったのです。だから、オープンの時点からすべてのビールを「スプリングバレーブルワリー」で完結させようと考えていました。」

苦労ももちろん多かったけれど、一方でいいこともたくさんあった。

「小規模醸造で、すべて手作業で作れる。だから小回りが利きますよね、やっぱり。自分の表現したいビール、思い通りのビールを作れるんです。

あと意外だったのが、と福井氏は続ける。

「お客様からビール作りのすべてが見えるということは、作っているこっちもすべて見えるということ。工場だとカメラとかで確認はできるんですが、肉眼で、かつあらゆる角度から見られるのはいいな、と。」

「お客様の反応がじかにわかるというのも新鮮ですしね。」

たしかにビールメーカーだと、普段やりとりするのがコンビニや飲食店だから、じかに声をきける機会がないのだろう。

ビールの個性を感じてほしい。

福井氏、そしてキリンビールの中に一貫してあるのは「ビールの面白さ、個性を伝えたい!」という思いだ。

「たとえばシングルホップでの醸造もそうです。」
シングルホップとは、一種類のホップのみを使用して醸造されるビールのことだ。複数のホップを使う通常のビールに比べると、ホップそのものの個性がはっきりしていて、飲み比べもたのしい。スプリングバレーブルワリー東京でも、限定ではあるが何度か提供している。

「もともと工場勤務だった頃に、テスト醸造でシングルホップを作って飲んでいたんですよ。どのホップにどんな個性があって、どう組み合わせたら……みたいな。」

それを初めて体験したときに感動した福井氏は、「この感動をお客様にも味わってほしい」と感じたのだという。

実際シングルホップのビールは「ビールの面白さ」を感じるための入り口として非常にいいのではないだろうか?
「ビール」それ自体の多種多様な個性を実感するツールとして、シングルホップシリーズは機能する。

スプリングバレーブルワリーの一押しをビアフライトにしているのも、ビールの個性を実感してほしいからだろう。

まずは「ビールってこんなにいろいろあるんだ!」という驚きから入ってもらう。そしてその中から自分の好きなビールを見つけて、どんどんビールを好きになってもらう。

ビールの面白さを伝えるという「義務」

そんな風にビールを好きになってもらって欧米のような「ビール文化」を日本に定着させること、それがスプリングバレーブルワリーの使命なのだ、と福井氏は言う。

「地ビールブームのようにしてはならない。ブームで終わらせてはならない。これはキリンビールの義務であり、スプリングバレーブルワリーの使命であると考えています。」

もちろん、かつての地ビールブームと現在のクラフトビールブームは、まったく性質の違うものだ。

「地ビールブームは、町おこしの一環であったりお土産だったりが多く、「ビール大好きな人」が作っているものではなかったのではと思うのです。一方で現在のクラフトビールのほうは、より「ビールへの愛がある人」が作っていて、それを飲み手も求めている状態です。」

作り手と飲み手の相互の釣り合いが取れていて、非常にいい状態なのだろう。

「一方で「飲みたいけれどなんとなく手を出しにくい」状況があるのも事実です。」

たしかにクラフトビールというと少々高めで手を出しにくいイメージもある。

「かといって安ければいいというものではない。多様性もなければならないからです。」

安さを求めるなら発泡酒や第三のビールでいい。
様々な人、様々なシーンのための様々なビールを。
もちろん筆者は第三のビールも発泡酒もピルスナーも大好きだ。例えば蒸し暑い夏の風呂上りに飲むビールは、キンキンに冷えた缶のピルスナーじゃないといけない。


ビールを飲めなかった方が、スプリングバレーブルワリーにきて「ビール美味しい!」って言ってくださる、それがうれしい。お客様の声がダイレクトに届いて、それを生かしてビールを作る。いいサイクルだと実感しています。」

もしかしたら、だけどこの先もっとクラフトビールが広がったら、「クラフトビール」なんて言葉はなくなるのかもしれない。
ピルスナーもIPAもスタウトも、平等にビールなのだ、それぞれのビールがそれぞれシーンの「選択肢」なのだ、そんな時代が来るのかもしれないとふと感じた。

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編集部 三宅隆平

脳髄を置いてきぼりにして走る

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