カテゴリ: ビール

バーや居酒屋で見かける、ふくろうがいる。
あまりビールに詳しくない方でも飲んだことがあれば忘れないだろう。
それは常陸野ネストビールを代表するトレードマークだ。

常陸野ネストは海外に強いビールだという印象がある。
50カ国に渡る販路を持ち、先進国であればおおよそどこでも手に入る。
その海外販路のうち実に約50%はアメリカでの消費とのことで、やはりクラフトビールブームの発端であるアメリカでの注目が熱い。

しかし、当然輸出だけの企業ではない。元々から輸出売り上げのおよそ2倍に及ぶ国内売り上げのベースがある。日本のビール一大輸出企業でありながらも、国内にも多くのファンがいて、その消費量が少なくないことが分かるだろう。
そんな常陸野ネストビールの次の販路は中国市場だ。
震災以降、東日本からの輸入に制限をかけている中国に対して、香港にブルワリーを作ることで、その市場へ切り込んでいくという。グローバルな展開にも目が離せない。

さて、クラフトビールブームも円熟期を迎えた今、
木内酒造から、常陸野ネストビールの醸造者である谷氏に話を伺った。

ビール醸造当時から、海外に向けた展開を考えていた常陸野ネスト。それはラベルデザインが英語で表記されていたり、キャッチーなトレードマークからも容易に察することができる。何よりも海外のコピービールは作らないという徹底した路線のおかげで、海外でも強い人気を博しているのだろう。
地ビール衰退期でも海外で順調に知名度を上げていった彼らだが、その一方で、順調ゆえに取り組まねばならない問題もあったという。

「 元々額田の工場は国内はもちろん海外のほぼ全ての地域にビールを出荷しているのですが、ただ製造しているだけでは常陸野の地でやっている意味がなくなってしまうんです。毎日地下水を100トン汲み上げて、地元には何も還元できていませんでしたから。」

「 そこで考えたプランとして、年間500トン消費する麦を農家さんに麦作って貰って、モルティングも国内でする。全てを国内で作らせるというものを考えたんです。 でもそうするとコストが今までの5倍ぐらいかかるんですよ。 うちはその年間消費量の500トンのうち200トンを作ってくれと頼んでいるんですけど、なかなか尻込みしてしまってうまく取り組みが進まないんですよね。」

「 そんな中でも大麦や小麦を近隣の農家さんに何とか作ってもらえて、去年はホワイトエールに使う小麦の30トンを収穫できました。」

「農家にただお願いするだけではなく、10年前から近郊の農家さんにお願いしてやっているのが耕作地の復元です。実は茨城県の耕作放棄地は埼玉より大きいんです。それらの、農家の担い手がいなくて荒れている土地を活性化しようという取り組みも始めています。」

「ここ、常陸野は常陸秋そばという高級そばの産地なのですが、それはもともと麦が関係しているのです。実は昭和43年頃は茨城県は日本一のビール麦の産地でした。ビール用の大麦は続けて作ると連作障害が起きるので、そばを植えて一度土地を休ませるんです。
しかし、農業政策の転換などによって茨城県のビール麦の生産はすごく減ってしまい、そば作りだけが残っていたんです。」

「 うちが農家の方に委託しているのは、荒れた土地にそばを作って、刈り取ったら麦を植えて、麦もそばも全量買取をして、そばは我々が経営している飲食店に回すといった取り組みをしています。麦もそばも買い取ってくれた方が農家さんとしては安心できるじゃないですか。」

地域の農業と連携した循環型の企業として、地元の活性化に貢献している。
ただ、常陸野で麦を作ったとしても別の問題が浮上してくる。それはビールのモルトの問題だ。

「 実は、ビールのモルトのスペックってものすごく厳しんです。ビールって水と麦とホップそれから酵母だけで構成されているので基準がすごく高いんです。だからせっかく農家さんに作ってもらっても規格外のものがかなりできてしまう。その規格外の麦で何かできないかと考えた時に、蒸留酒を作ろうという動きになったんです。」

あまり知られていない事実かもしれないが、木内酒造ではウイスキーの蒸留も始まっているのだ。構想から10年、やっとの思いでこぎつけたウイスキーの蒸留。未だ試験的な準備段階であるため、発売まではまだ時間がかかるものの、常陸野で芽吹く新たな地ウイスキーに目が離せない。

「うちが農家さんにお願いしている麦は日本で最初のビール麦なので、 オールジャパニーズ、日本の麦で日本のウイスキーを作る、という構想を抱いています。樽はスパニッシュオーク、ワイン樽、桜の樽で寝かせようと考えています。特に桜は色も風味も出るので期待しています。」

オールジャパニーズとは、常陸野ネストのビールでも標榜している通り、海外のコピーは作らないという宣言でもある。スコッチともバーボンとも違う本当の意味での「ジャパニーズ」ウイスキーはこの常陸野から生まれるのかもしれない。

新たな動きにも目は離せないが、海外のコピーを作らないという常陸野ネストの新たなビールはどのように生まれるのだろう。

「それは日々の会話の中で生まれますね。 作ろうと思って無理に出るものはつまらないんですよね。 例えば珍しいホップを使ってそのホップの名前をつけて売ることは誰だってできる。だからそういうビールはうちのメインプロダクトにはなりません。それだと海外のコピーになってしまうじゃないですか。」

「例えば、我々の製品の中には「ニッポニア」というビールがあります。金子ゴールデンという100年前に日本で栽培していたビール麦と、ソラチエースというホップを使ったビールです。」

「 ソラチエースは元々サッポロビールさんが育種・開発したホップだったのですが、レモンのフレーバーが強く出るものだったので、手放してしまったのです。それが巡り巡ってうちの取引しているアメリカのホップ農家さんを経由してうちに回ってきたのですけど、そのフレーバーが金子ゴールデンに最高にマッチしたんです。そういったバックボーンがしっかりとあることで、ここで作る地域的な意味やストーリーが生まれるんです。」

メインプロダクトが簡単に産まれないということは「ニッポニア」の例を見れば容易に想像ができる。美味しいものを作るのは当たり前で、そこに特別な価値を作り出すためには、偶然の巡り合わせも必要になってくるのだ。
そんなバックボーンがあるからこそ、多くのクラフトビールに埋もれることなく海外で評価されるのだろう。

しかし、クラフトビール業界で世界的にも大きな評価をもらっているということは、視点を変えてみれば日本のビール業界の中でも大きな位置を示していることにもなる。今後は大手との食い合いや差別化が大変になってくるのではないだろうか。

「大手との関係は良好だと思います。各社に交流を持ってますし、自社のビールを持ち寄って比較しあったりもします。そもそものマーケットの捉え方が違うので大手とは住み分けられているんですよね。
高品質である必要はうちも大手も変わらないです。クリーニングに対しての考え方や微生物管理の方法なんかは我々もほとんど大手と同じことをやっているので。」

「ただ、ビールのマーケットを捉えていくとなると話は違ってきて、 大手のようにあれだけ生産規模が大きいと、ある程度マスなマーケットを狙っていくしかない。それは宿命です。」

「それに対してうちみたいにクラフトでやっているところはもっと芸術志向のビール、アメリカではアーティシャンブルワリーなんて呼ばれていますけど、もっと高付加価値をつけたビールで攻めていかなければならないんです。 結局大手と同じようなことをやっても規模が違うので負けてしまいます。ですので大手が戦わない、ローカル性、ストーリー性で大きく勝負をしています。」

「先ほどお話ししたニッポニアで100年前のビール麦、金子ゴールデンを作ったのも、この土地がもともとビール麦の産地でそば作りだけが残っていたという背景があったからこそ実現ができるもので、大手がそれをやっても意味がないんです。狙ってる層を大手と変えているからこそ、我々のようなクラフトビールは生き残っていけるんです。」

「 ただ、その土地だからできる「ふさわしさ」は滅多に出てくるものではありません。その都度いろんなことを考えているうちにポッと思いついて、だんだん話がまとまっていって実現に至るんです。
結局のところなかなか思いつかないし他が真似できないからこそ、高付加価値になるんです。」

もっと特別なビールが飲みたい。そう思う人々がいる限り、常陸野ネストビールは邁進を続けるだろう。
地元を大きく巻き込んで、色々な取り組みに挑戦していくことで、それが新たなストーリーを生み、唯一無二の価値を創出する。その循環こそが、常陸野ネストビールを更に面白くさせていく。未だ知らない常陸野の魅力をこれからも発信し続けてくれることと、常陸野ネストにしか出来ない味わいのビールに期待して、筆を置きたい。

今回取材にご協力いただいた、木内酒造常陸野ネストビールさまのウェブサイトはこちら。

湘南ビールの作り手、熊沢酒造の醸造長への取材記事も読んでみてほしい。

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編集部 岡田悠吾

ウイスキーが深まる季節がきました。

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